2015/06/29

(No.2356): MIDI同期スレーブのBPM表示誤差


羽交い絞めに遭おうともわたくしはこのボタンを押し続けます。このボタン押して音楽を奏でておりますこんばんわエフオピです。
このボタン押して早いもので今年で33年でございます。と云ってわたくしが33歳ということではありません。いや、その年齢でいいならそうしてもらえると助かります。このボタンを最初に押した時は大学1年生でございましたゆえ。
云うにことかいて年齢は概ねおわかりのことと存じます。云うにことかいてという用法はこのような使い方を致しません。致しませんが云うにことかいてこのような使いかたを致します。


さて過日、「ひかりのうま」さんでのライブ日のことです。サウンドチェック後、ご共演させて頂いたcoherenceの山口さんやMOMOさんからdeweyのライブシステムについてMIDI同期スレーブ側のBPM表示ってやっぱり半端な値になったりしますかと聞かれました。わたくしは最初は意味がわからなかったのですが、taira士が「はい時折なっております」と答えておりました。
伺えば、例えばBPM120.0の場合スレーブ側は、119.9とか120.1になったりすることがあるというのです。恥ずかしながらわたくしは初耳で心底え”ーという塩梅で驚いたのであります。

なぜわたくしが驚いたのかと言うと、deweyライブシステムではわたくしのMacがMIDIクロックのマスター側になっておりまして、マスター側の表示はそのようなことがないからなのです。MIDI同期自体もあまり信用はしていない、といっても一時的とはいえそこまでMIDIクロックがずれるものなんだ、という認識を新たにしたのであります。スレーブ側のtaira士は毎回それを見ていたということも初めて知ったのでした。

山口さんも普段はマスター側だということで以前スレーブ側としてライブをされたことがあって、そのときにそのような半端な値になったことをお知りになったと。同じAbletonLiveの同期システムであるdeweyにそういうことがありますかとお尋ねになったのでした。
「MIDIクロック発生機を別建てでシステムに組み込む方式ですと安定するらしいです」というご案内をtaira士がしているのを聞いて、わたくしもははーなるほどと膝を打ったのでした。

とはいえ、実際にズレて同期できないわけではないのでこれはこれで一応は正常系なのでしょう。そのズレが揺らぎになってるかも知れませんし。
しかし33年もこの世界でやっていながら知らないこともまだたくさんあるなーということを今更に知りました。


余談ですが、マルチトラックテープで録音した音にMIDI機器を同期させるために1トラックをつぶしてSMPTEとかFSKなどの同期信号を録音した時代もありました。わたくしはSMPTE派でしたが、MTRの磁気ヘッドやローラーを奇麗に掃除メンテしておかないと同期が狂ったりしていろいろ大変だった想い出があります。

で、これって何オチ。?




2015/06/26

(No.2355): カセットピンポン


現在dewey 2ndの制作中。昨日、これまでにあがった曲の2mixをiPhoneに入れて音の確認をしていたときのこと。
一通り確認したので止めようと思ったら次の曲がシャッフル再生された。その再生された曲は、筆者がテクノ音楽をやりはじめた頃に友人の下宿で録音した聞くも無残なトホホテクノ歌謡風ミュージックコンクレート的な作品だった。既に30年以上も前に録音した曲だ。
余談だが、当時カセットテープだったものを15年ほど前にMDに録音し、その後mp3化してアーカイブしているのだ。

その曲を聴いた時、ギャップに思わず息を飲んだ。つまり2015年deweyの曲と1982年の汚れと勢いの曲とのギャップ。
その曲名は「遅いバイト料」
作詞:T氏、作曲:エフオピ
楽器と呼べるものはYAMAHA CS-01のみ。あとは、アルマイトのやかん(叩いて変形)、茶碗(欠ける)、ちゃぶ台(傷つく)や平凡パンチ(破れて大破)を叩く。お茶(口に入れて噴き出す)。ドラム用のスティックはあったかも知れない。忘れた。とにかく何か叩いていたのであったのかも。
加えて男3人(M氏、T氏、エフオピ)による奇声絶叫などを玩具マイクで録音。録音自体もカセットデッキ2台でのピンポン録音だった。

この当時は音楽を作っているという意識はあまりなく、とにかく変な状況や変な音を記録する録音するということを主眼としていた。
カセットデッキ2台によるピンポン録音は、自ら考案したと思っていた。実際は有名な多重録音方法だったことを後で知ることになるのだが。
当時はどうやったら前に録った音を残してその上から新しい音をダビングするんだろう、と手持ちの機材で試行錯誤した。
マイク入力のあるカセットデッキの場合、外部入力の音(前に録った音をもう一台のカセットデッキから再生する)とマイク入力(新しい音)がミキシング可能だったので、その状態を録音すれば前の音の上に新しい音が重ねられることを発見した。

こんなこと冷静に考えれば誰でも思い至るのだが、頭の回転の悪い筆者は当時このやり方を発見して狂喜乱舞した。

それから半年くらい経って、4TRカセットMTRを購入し本格的に多重録音の道を歩み始める。



2015/06/25

(No.2354): アンダーパスのできごと


乾燥納豆の美味しさに溺れるもその硬さでしこたま歯にくっつく仕様は珍味としての存在であり、手にとってその匂いを嗅げば正しく納豆のそれである。

この芳醇なる香りが堪らないので我が六級改号別名ducatim696之介に跨り、朝の井の頭通り左折後の甲州街道環七アンダーパスをいつもの通り四輪の後ろについて粛々と走る。
アンダーパス最深部からの登り口の上の測道にこちら側を下に覗き込む白バイ隊員一名の姿を認める。久しぶりに覗きこむ警官をみた。おそらく一斉取り締まりだろう。最近は見かけなかったが、以前何度もこの場所でやっていた。

アンダーパスは渋滞こそないが車両は上り二車線で数珠繋ぎ状態であり概ね時速20kmくらいでノロノロ走っている。我が六級改号別名ducatim696之介で時速20kmでノロノロ走ることはかなりテクニックを要する。この場合テクニックというのは二輪技能のそれだけではなく、交通ルールに沿った振る舞いのできる心のテクニックのことだ。
見たまえ、このわたくしの蟠りの中の低速走行の妙をうはッうはッとヘルメットの中で絶叫独り芝居をしていると、筆者の後方から夥しい排気音を轟かせて一台のビッグスクーターが走ってきた。
そのビッグスクーターは二車線間の黄色車線の上を真中走行して筆者を抜き、数多四輪をすり抜けしてそのまま前方へ走り去った。

ビッグスクーターの彼は上から白バイ隊員が見ていたことなど知る由もないだろう。きっとこの先で捕り物が始まるはずだ。半ばわくわくしながらゆるゆると坂を登り、登りきったところで信号待ちになったので停まってどれどれと観察した。

辺りは確かに一斉取り締まり風な塩梅で、路肩には白バイ数台がスタンバっていた。しかし、先ほどすり抜けしていったビッグスクーターの姿はない。捕まっていないではないか。

いやいやいやいや、上から見てたでしょ。あれを捕まえないで何を捕まえようというのでしょうか。あのあからさまなる進路変更禁止違反なのに。
捕まえられない事情が何かあったのかもしれないが、ちょいとがっかりした出来事。




おしまい。



2015/06/22

(No.2353): 窒素を探す物語



東京市西部方面作戦司令本部より通達。
このままじゃ今月はこの辺境屑ボログ始まって以来の最低の投稿回数を更新することになる。
投降せよ。
おいそこの君、投稿の誤字じゃないかと思っただろう。


さて、それはさておき筆者は昨日、ingressのイベントに参加するためにフィアットパンダ100HPを常磐道へ向けたと思いねぇ。
途中のSAで停車していたとき何となくクルマが右に傾いているような感じがした。右側前輪タイヤを確認する。何やらタイヤの凹み方が穏やかではない。
いや、絵で表現するなら凸か。エア漏れか。指で押すとなんとなく柔らかい感じもしないでもないこともないかもしれないかもしれない。全てのタイヤを押してみるが判然としない。

しかしこのたわみ具合はエアが漏れているんではなかろうか。嗚呼、しかも筆者のフィアットパンダ100HPは、昨年11月にタイヤ交換の際に窒素充填にしたのである。窒素など入れたのは初めてなのでガソリンスタンドでも入れられるのか知らない。窒素、チッソ、チッソー。そうだ、タイヤ交換したイエローハットを探そう。イエローハットなら窒素補充できるだろう。

ここはF県I市だ。イエローハットはどこぞ。たれぞある。たれぞある。流石都市部、すぐに発見し、イエローハットへなだれ込む。転がるように受付に突入する。
「わたくしに窒素をください、わたくしは今欲しているのですチッソを」と告げる。お車はと聞かれ、フィアットパンダです。ひゃくエイチピーという補助言はいつも言わない。すると大抵、パンダ1の旧パンダと思われる。今回もそんな感じだった。いいぞ。

待ち時間なしで、すぐに対応してくれるとのこと。言ったそばから、大きな窒素ボンベのタンクを転がしながら背の高い店員さんがクルマまで来てくれた。

「空気圧はいくつですか、外車はわかんないんで」と、F県の方言で聞かれ、たぶん2.5くらいですかねーと即答しながらも車内からフィアットパンダ100HPの取説書をひっぱり出す。その間にプシュっと空気圧ゲージをぶっさして測ってくれた。
「あーそうですねー2.5入ってます」
「ですよねー」
と言いながら取説のページをめくるめくる。しかしそもそもこの取説はパンダ2用なので100HP用のタイヤの空気圧が載ってないことを思い出し、あーもーそうだ載ってなかったんだったーもー2.5でいいや、2.5です2.5ですとさらに言い募る。

プシュ、プシュとタイヤ4本全部測ってもらったら「お客さん、全部きっちり2.5入ってますよ」と仰る。
そっこうで「さようなら」と礼を言ってイエローハットを辞す。

しかし、あの凹みというか、凸。ノーマルで(何もない状態で)あんな感じにたわむのかー。まー何にしてもアレだ、出先だし、何でもなくてよかった。紛らわしい。楽しい。


ところで、改めてググってみると通常タイヤに入れる空気の中身は窒素80%酸素20%くらいのことなのでぶっちゃけ普通の空気充填でもぜんぜんOKなんではないだろうか。混ざっちゃってもOKなんではないだろうか。





2015/06/18

(No.2352): 無睡29時間


9:00
起床、二つの玉を埋め満身に雪花を貼る。
12:08
出立、四角の面に白く活字の踊る。
13:20
他の地で黒水と眺むる。
14:00
windows10の聖地は擬似と偽の堅牢。
16:10
投宿の角に至り、直と歪む。
21:30
牧歌の興。
2:00
寸部でIPアドレスの坐忘。逆と真。
3:30
試練の検証をして、末路の灰を喰む。
4:20
方人の睡廊、方人の別法。重ねた泉。
5:00
万全の家宝に歪みの虚。文と鳴る。
8:00
在確の美処へ誘う周壁。
9:10
怪の軸。奇の繁忙。時を敷いて時を裁く。
10:05
遠近の飛び石。雑の模。
11:30
痺眩に立つ。
12:30
蟄至と降る。渺茫の掟。
14:00
残意の砦、僅かの果て。
14:30
昏倒。




2015/06/14

(No.2351): 仮題 dewey 2nd CD進捗 (その弐)


食べ物のカスがぽろぽろと落ちていると虫が湧くぞ、という太古からの慣わし通り埃の中に何やら動く物体を認める。2ミリほどの虫がすごすごと作業机の大海を泳いでいる。
筆者は改めて想った。嗚呼、地球という惑星はなんと生命に溢れているのだろうと。そうではないか。この星にいると、どこにいてもどこを見ても何かしらの生命体を認める。生命体ではないものは大気、水、鉱物、人工物くらいだろうか。火星の荒涼たる景色とはえらい違いだ。
名も無き虫はなおも作業机の大海を本能のまま泳いでいる。泳ぎきっている。大海の端まで泳いだ虫はそこが世界の果てだと思ったのか踵を返して戻ってきた。
虫の行方を追っていたらH師匠のところの鎮Z音響技師総長からメール。鎮Z音響技師総長へdewey 2ndの数曲のミックスダウンを依頼しており、その仮ミックスができたので確認してとのメール。さっそく拝聴。あまりの良ミックス具合にニヤニヤが止まらない。
サウンドトリートメントは言うに及ばず、ミックスバランスやエフェクト等によるある種のアレンジも加わっており新鮮な音象にニヤニヤが止まらないのだ。細かい波形編集の跡もありやとも思われ、そうとうシビアな作業をお願いしたようで恐縮する。しかし、それだけ良い作品に仕上がりそうで、手前味噌ながらご期待に乞いたい所存丸出しでお送りしております。

この後の作業として鎮Zさんミックス曲の最終確認、その後自前ミックスダウン曲、本編曲以外のサイドチューン制作で概ね曲の準備は終わる。その後、ジャケ写、新アー写の撮影、プレス準備作業(CD原盤作成とジャケデータ作成)、プレス業者発注という段取り。
予定では8月のライブ前には揃えたいところだが、現時点では発売日は未定であります。




2015/06/09

(No.2350): 遠巒の廻廊(十三)


直近バックナンバー
遠巒の廻廊(十一)
遠巒の廻廊(十ニ)


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目が覚めるといつもの格子模様の天井が見える。障子からはうっすらとした外の明かり。見慣れたこの部屋の天井。ここへ来て間もない頃は、朝起きるとどこにいるのか混乱したが、今ではこんなにのんびりとした朝を繰り返している。日の出とともに目覚めるという生活は意外と健やかさを与えてくれる。そもそもわたしがここへ来てどれくらい経ったのか、最近はあまり思い出せなくなっている。

ここの暮らしは暦にあまり執着しない。それだからここに来て何日目とか今日は何曜日かなどといった習慣も、いつしかどうでもよくなって忘れてしまった。
藤助によれば役人などの勤め人以外はその日暮らしが多いらしい。商い人はそれでも季節の揃え物や慶事などで暦も必要だが、お職人などは宵越しの銭を持たない気質が多いと聞く。まるで落語のようだ。
実際わたしは180年前の東京、いや江戸にいるのだから、落語の世界を地で行っているのは間違いはない。たしか今の年号は天保だと聞いた。こんなことならもう少し歴史を勉強しておけばよかった。未来に起こることが分かっているなら辻説法預言者にでもなればそれで喰っていけそうだ。しかし天保という時代に何があったか、残念ながら知らない。

待てよ、天保では思い出せないが、明治維新は確か1868年とかそのあたりだった覚えがある。180年前ということは、今はたぶん1834か5年頃だろう。するとあと30年そこそこで明治維新ということになる。こいつはすごい予言になる。そう思うとふとんの中でわたしは変にうきうきした。



カラカラと戸を開ける音がして、いつものようにお松が朝餉の支度に来たようだ。わたしは起き上がって布団を部屋の隅にきちんと畳んだあと、顔を洗いがてら台所を覗いた。
「おはよう」と声を掛けるとお松は「おはようございます」とこちらを向いて丁寧にお時儀をする。この時代も、”おはよう”は”おはよう”なんだと気付いたのはだいぶ経ってからだった。
お松とは挨拶程度でなるべく口はきかないようにと藤助に言われている。彼女にはわたしのことは二本差しだと教えているらしい。会話から変に不審をもたれてもまずいという。それにしたってこんな侍はいないだろうとは思うが。藤助はわたしのことを南蛮帰りのどこそこの藩士とでも話しているのだろうか。

朝餉を済ませるととたんに暇になる。外に出るときは必ず藤助を伴わなければならないと決められている。今日のように藤助がいないとなると一日この屋敷の中に居なくてはならない。雨ならまだしも、今日みたいな気持ちの良い天気では、外に出てこの時代を見物したい。できることと言えば、こうして縁側に座って茶などをすすり庭のキンメツゲを眺め、僅かに聞こえる外の雑踏に耳を澄ますことくらいか。

わたしをこの時代に飛ばした何者かが連絡を寄こすまで何をするでもなくここに居なくてはならない。わたしをこの時代に飛ばした目的もわからない。聞きたいことは山ほどもあるがどうすることもできない以上今はおとなしくしている他に手はない。


と、裏庭の蔵の方からバチンと大きな音がした。驚いて思わず腰を浮かした。

「え、何?何の音?」

この時代にはない電気がショートしたような音だ。恐る恐る裏の蔵を見に行く。
特に変わったことはなさそうだ。扉も閉まっている。煙のたぐいも出ていない。戻ろうとしたときだった。ガキンという音とともに蔵の観音扉が静かに開き始めた。
そういえば藤助からこの扉は事があるときだけ勝手に閉まったり開いたりすると聞いていた。自動ドアだろうと思っていたが、確かにそのようだ。わたしは何が出てくるのかと扉の開いた暗い蔵の中を戦々恐々と見詰めた。

「やぁ、お元気そうですね」

ポロシャツにチノパンという恰好の初老の男が蔵の中からひょいと顔を覗かせた。この時代にあって場違いな服装だ。この顔、この声、聞き覚えがある。

「あ、あんた、す、菅井さん?」

上ずった声で問うと、

「お久しぶりです。いや、それほどでもないかな。あちこち飛んでいたものですから、それこそ時間の感覚があまり掴めません。困った役回りですよ、あはは」

と言って菅井は笑った。
これまでのことが走馬灯のように頭を巡り、もう言葉にならなかった。

「あなたそのお召し物お似合いですよ、やぁやはり自分のいた時代は落ち着きます」
「ちょ、あんた、菅井さん、いったいこれは何なんですか、わたしをなんでこの時代に、」

もどかしくうまく言葉が出ない。

「畳が久しぶりなもんで、ちょいとあがりますよ、茶でいつふくしたいですねぇ」

そう言うと菅井はさっさと奥の広間へ歩いて行ってしまった。わたしは慌てて後を追った。

お松が帰ってしまったのでわたしが茶の支度をする。この時代は庶民でもお茶が広まって久しいらしく、といっても煎茶の類だが、淹れ方は現在と変わらずに急須もある。余談だが玉露はちょうどこの時代に山本何某が考案したのだという。

庭に面した二十畳の広間に座り菅井と向かい合う。ひとしきり茶をすすると菅井は話し出した。

「いろいろとご無礼の段は百も承知なのですが、あたしも役目の上のことでしてね、なにとぞご容赦のほどを願います。ははは、この時代に戻ると話し方も地が出てしまいますな。いやぁそれにしても庭のキンメツゲが満開ですなぁ。あたしはこの庭木が好きでねぇ。実はね、これを植えたのはあたしなんですよ」

梅雨間近のこの季節はキンメツゲの開花と重なっているらしい。庭には奇麗に刈り込まれたキンメツゲに花が一面に咲き揃っており、白い淡雪の花が緑に映えている。

「元の時代に帰してくれるんでしょうね、菅井さん」
「それはあたしにはなんともお答えのしようがありませんが。。」
「そんな無責任な、どういうことなんです、あなたにその役目とやらを与えている誰かに話せば戻してもらえるんですよね。だいたい一体何の目的でわたしをこの時代に送ったのです」
「目的はあたしにもよくわかりません。が、ひとつ言えるのはあなたが彼らの工作の邪魔をしたからではないかと思います」
「彼ら?それがあなたにその役目とやらを与えている連中ですか」
「はい。詳しくはお話できませんが」

話とは裏腹に皐月晦日の心地よい風が庭を流れている。そよ風を顔に受けながらも、わたしは言い募った。

「工作を邪魔したといいますが、そんな覚えは微塵もありませんよ」
「はい、そうだと思います。それは、未来の話ですから」
「未来?」
「おそらく、あなたが暮らしていた2013年よりも未来の出来事のはずです」
「え?まだ起きてもいないことを阻止するために、わたしを過去へ飛ばしたってことですか。。」

わたしは驚いて二の句を継げなかった。

「あたしの知る限り彼らは何千年もいや何万年も昔からそういうことを担っているようです。まぁ彼らの言い分では「修復」と呼んでいるようですが。。。あたしがお教えできるのはここまでです。申し訳ありません」

さて、と言って菅井は立ち上がると庭に下りて行った。腰にぶら下がっているチェーンを手繰り寄せ、先端の十得ナイフのような器具を手に取ると、花のあるキンメツゲの枝を何本か切って、それを持って縁側に上がってきた。持ってきたキンメツゲの枝を纏めて束にしてから器用にくるくると紐で結んだ。

「これ、持っていきますね、本当はこっちのモノを時侯機で持ち出しちゃだめなんですがね」

菅井は年甲斐もなく片目をつぶってみせ、すたすたと裏の蔵の方へ向かった。急いで後を追う。蔵の前で菅井は待っていた。

「菅井さん、もう行ってしまうんですか、わ、わたしも連れて行ってください」
「残念ですが、それはできません。彼らからの指示を待ってください。実はあたしはこれをあなたに預けるためにここへ来たのです」

そう言って菅井は、蔵の中から四角い立方体の形をしたものを持ってきた。一抱えもあるケースのようだ。

「なんです、それは」

菅井はケースを下に置いて、蓋を開けた。型抜きの中に何やら硬い本のようなものが収まっている。灰色、茶褐色、黒いいくつかの染みもみえる。

「このケースの中にはオルドビス紀の遺物が入っています。ただ発見されるのはこの時代から170年も経ったイギリス・ウェールズ地方のマズレーという古城の書庫からです。発見者はフェルディナンド・セジュウィッチバーグ博士というイギリスの考古学者です。これは分厚い本のような体裁ですが、紙ではなく獣の革に鉱石を解いた溶液で記述してあるいわば古文書です」
「え?古文書?獣の革?そんなものオルドビス紀にないですよね。確か恐竜よりももっと昔の何億年も前ですよね」
「はい。これは当然我々の遺物ではありません。”彼ら”の遺物です。この遺物の発見が全ての発端なのだそうです。これを”彼ら”が来るまでここで預かっていてください」

菅井はそう言うとケースを置いたまま、踵を返して蔵の中へ入っていった。「それでは、また」暗い蔵の中から菅井がそう言い終えるとすぐに扉が閉まった。ガキンと鍵の閉まる音が蔵の中から響く。

ひゅんひゅんと小さく唸る音がしたかと思うと、バチンと大きなスパーク音がしてそれきり何も音がしなくなった。蔵の扉はしっかりと閉まったままだ。


蔵の前でわたしは茫然と立ち尽くしていた。
遠く本所横川町の捨て鐘を聞いてか深川永代寺が朝四ツの鐘を鳴らし始めた。





(続く)

2015/06/08

(No.2349): 晃一郎と吉之助(軍装の行方)


本郷区駒込林町にあるカフヱ”歪の鎧”で晃一郎はさきほどからしかめっ面で新聞を読んでいる。その紙面には「村岡翁失脚、引退」の大きな活字が貼りついて踊っている。「成功ゆえの撤退、か」晃一郎はひとりごちると新聞を畳みながら冷めた珈琲を舐めた。

豊多摩郡大久保、同代々木の地で連日行われた提唱会。その成果を待たずして村岡翁の決断だった。しかしそれは提唱会の有無成否にかかわらず最初から決まっていた筋書きであろうことは想像に難くない。言うなれば切掛けを待っていただけだ。世間で騒がれている失脚という扱いはむしろ村岡翁側からのリークによるものとの見方もあり、それはつまり筋のある物語として帰結させることが目的だったのだろう。
これで上野単独区の独立、軍律立憲はなくなったことになるが、しかし、このままでは到底終わらない予感がする。その証拠に八月に何やら大箱でやらかすとの噂も聞く。

晃一郎がそんなことを反芻しているとカフヱのドアが乱暴に開いて吉之助が飛び込んできた。入るなり人目も憚らず「晃さーん」と言いながらきょろきょろと見まわしている。晃一郎は呆れ顔で手を挙げて教えた。


「お前ぇもちっと人さまの迷惑考げぇろ、みろ客が笑ってるじゃねぇか」
「面目ねぇ、でもよ晃さんの前ぇだけど、顛末ぁ聞きたくて飛んで来たんでさぁ」

そう言いながら吉之助は晃一郎の前へ座ると、勝手に珈琲をぐいと飲んでから「あー」と盛大に息を吐いた。

「おい、自分の注文くれぇ取れよ」

通りかかった女給に水出し珈琲と早口に言うとにやにやして晃一郎を見据えた。

「あにをニヤついてやがる。その顛末ってぇな何の顛末でぇ」
「何のって、奴らの提唱会のですよぉ」
「あにを云ってやがる、お前ぇも提唱会に行ってたじゃねぇか」
「情勢のですよ、情勢の顛末、提唱会のあと、あの爺さんが辞めたってんですよね」
「あにが情勢だってんだよ、お前ぇにわかんのかい」
「AbletonLiveのボコーダーの設定よりはわかりやす」
「へ、可笑しくもねぇぜ」

低空を飛ぶ複葉戦闘機と思われる轟音が響いた。カフヱの薄い波打つ窓ガラスがガタガタと鳴る。それを横目でみながら晃一郎は言った。

「村岡翁の号令は死んじゃいねぇはずだ」
「そうなんですかい、だってその新聞にも引退って載ってるじゃねぇですかい」
「おいら、こりゃ隠れ蓑だてぇ踏んでる。確かにあの爺さんは一線から退いた。そりゃ間違ぇねぇ。でも、そりゃもう手も口も出さねぇてぇ隠居爺いみてぇに縁側ぁ座って番茶ぁ啜りながら猫ぉ膝の上へ転がしてるとはぁ思えねぇんだ」
「でもあの爺さんはもう表には現れねぇってこってすよね」
「ああ、たぶんな。おそらく、くだんねぇ傀儡てぇやつが代わりに表ぇ出てくるぜ」
「それはぁあの軍装の奴らデューイですかね」
「とまではどうかわかんねぇが、村岡翁がこれからも裏で糸ぁ引くことだけはぁ見え見えだぜ」

そこへ金魚鉢をかたどった器に入った吉之助の珈琲が運ばれてきた。吉之助は嬉々として啜り始めた。

「ところが今ぁわかってることは、あの軍装の奴らも解かれるてぇことだ」
「え、するってぇともう提唱会もやらないってこってすかい」
「まぁ軍律立憲が事実上なくなったてぇんだから提唱会をやる意味もねぇって理屈にはなるがな」
「それで、クビってこってすか、デューイの奴ら」
「ところがそうじゃねぇらしい。。八月になりゃ。。」
「八月?」
「ああ、八月に、何かやることぁ掴んだんだが」
「て、提唱会ですかね」
「まぁそれに近ぇことぁやるんだろうが、ただな、八月ぁでけぇ箱でやるってぇ話だ」
「そいつあ本当ですかい」
「そんときゃ、奴らの軍装は解かれるらしいぜ」
「え、そしたら奴らどんな格好になるんだろう」
「しかも、八月ぁ新しい電磁的空気振動を記録した盤を配布展開するてぇ噂もあるぜ」
「本当ですかい、そいつぁまったく驚きやしたね」

また低空飛行の複葉機がすぐ上空を飛行しているようだ。珈琲茶碗がかたかたと鳴る。すぐに吉之助の言葉が聞き取れなくなるほどの轟音になるだろう。

「また来やがった。軍律立憲がなくなったてぇのによ」

と言って晃一郎は空を指差した。その声はすでに轟音にかき消されていた。吉之助は聞こえないのか黙ったまま残りの珈琲を啜っている。








2015/06/07

(No.2348): dewey 2days この二日間のタイムライン(ボケなしオチなし)


6/5(fri)
10:30
いつもの代々木スタジオで今回のライブ構成での初リハ&兼二日分のゲネプロ。そして毎度お馴染み霊障(今回はiPadMIDIポート消失)に遭いながらも、初合わせ曲間のぐちゃぐちゃ感に両者の顔もほころぶ。



15:00
そして毎度お馴染みtaira士の肉+肉の図。



16:00
早めに大久保ひかりのうま 到着。お店前でMOMOさん山口さん高橋さんにご挨拶するもまだお店のシャッターは開かず。
雨も降り出し途方に暮れていたら、某大ハコのブッキングご担当さまよりdeweyオフィシャルへオファーメールあり。狂喜しつつ手配の策を打つ。

17:30
滞りなくサウンドチェック。出演者さま達の各種機材群に置き場の確保に余念なし。店長マルタさまよりご旅行のお土産(お菓子)を頂戴し美味しく頂く。

20:10
chinaproveさん
ドラム等なしバージョン全面テクノセット+映像含のライブセット。カオスパッドでのリアルタイムエフェクトが効果的で大変格好の良いテクノトラック満載。映像を見入ってしまうが音楽が素晴らしいのでちゃんと成立しているのは流石。我らdeweyもみならわなくてはと思った。



20:50
dewey
今回は映像の途切れをなくした新しいライブ構成で再構築した。曲間は映像はブラックアウトとしたがつなぎの音をサンドウイッチした構成。どこからか曲なのかもう次の曲になっているのか判然としないという感想を頂く。良い塩梅だ。大きな失敗もなく無事お届け。しかし写真を見ると怪しい奴らだ。





21:30
coherenceさん
発音クリップ自体がもう次元が違う。さすがの圧巻の音像。まずもって、ableton Liveのセッションビューとアレンジビューを切り替えながら演奏しますというお話を後でお聞きし、私どもdewey両者はむむーと唸るばかりです。MINIBrute2台というのも格好良かった。筆者的に特に印象に残った部分は中後半?にあったクリップで16ビートのハットとキックにノイズっぽいブーという雑音の持続音が流れているシーン。これはすごかった。目から鱗が落ちたほど。やはり我々deweyのような凡人とは視点というか聴点が違う。



ひかりのうま店長マルタさま、はじめ共演者のみなさまありがとうございました。またよろしくお願いいたします。そしてお越し頂きましたお客様本当に感謝でございます。ご贔屓を賜りまして誠にありがとうございます。


6/6(sat)
と感謝の意を表していたらあっという間に次の日になってしまったので
8:00
老犬黒柴C1号とヨーキC2号を周回軌道に乗せる。

16:20
今日の会場、代々木バーバラ着。ここはブーガルというお店だった時に筆者同い年のえびたさんとふたりでやってたCYRKONというテクノユニットで出たことがあった。それ以来だ。なおバーバラさんにはプロジェクタがなかったのでレンタルした。

17:00
プロジェクタセッティングなどで多少手間取るもおかしな霊障もなく滞りなくサウンドチェックおしまい。

19:00
a.k.a free,single and disengagedさん
比較的速いBPMの完全クラブ対応テクノトラック応酬。弾力のあるキックに魅了される。シーケンスも好み。格好よかった。畳み掛ける技も素敵。

19:40
ANIMAL WARFAREさん
ダウンビートを主軸に生ベース演奏、フロアタム演奏もありつつダブ色を感じる大層格好の良い大人のエレクトロニックダブアンビエント。ミドルテンポ若干遅めBPMの揺らぎ感、うねる感じ。新ジャンルか。これは素敵。また見たい。ステッカーとCDを頂く。

20:20
dewey
思えば久々にしっかりとしたPA設備のハコでのライブだったので広いダイナミックレンジに興奮。それに乗じたのか演奏も近年にない良い出来だったようです。ひとつ残念なのは映像の写りが今ひとつだった点。しかしこれはそもそも非対応の会場だったので仕様がないことです。




代々木バーバラさま、はじめ共演者のみなさまありがとうございました。
またよろしくお願いいたします。
そしてお越し頂きましたお客様本当に感謝でございます。
ご贔屓を賜りまして誠にありがとうございます。





あ、それから
おそらく、この軍装(衣装)は今回が最後だったかもしれません。



2015/06/02

(No.2347): 何回難解だと言わせるのだ(新しいライブ告知できました)


2011年や2012年などのこの拙屑ブログを見るとほぼ毎日執筆しておる。何をそんなに書くことがあるのだろうという意向に呼応したのか最近の体たらくぶりには目を見張るものがある。目を見張る。
芽緒美春 (31) 職業:何時かのはちみつ混ぜ係
座右の銘「楽して儲けるスタイル」

さてdeweyとしては現在ライブに向けて順調におしっこすいすい負けないドッグなどの発注に余念がありません。そして気付けば上司は年下になりこのオッサン使えねぇなと蔑まれるほどの人気を博しております。
そんな中、K県Y市の音楽フェス事務局よりオファーを頂戴するも大人の事情で辞退しまくり飛ばしまくり我らに相応しい帯域を探す旅に出ようと誓い合ったところでございます。

そんなdeweyは今週の金曜日(6/5)土曜日(6/6)初の二日連続ライブである。それだけでも史上初であるにもかかわらず、根幹であるところのライブ技法自体も刷新しているというから驚きだ。即ち、技術的、技能的、全てに新しいという。(新曲もあるが既存もあるよ)しかも一発本番に近い状況であるからして、況や吉と出るか凶と出るか愉しみは尽きないのでございます。

古(いにしえ)の雑味を敬うなら、「そうしんさい」とカル大尉は仰るはずですわ。
1963年6月4日(水) ぼくは6ヶ月になったよ。
I課長、あんたは足音ひとつさせずに近づいてきますね。
職業:PC筐体の空冷穴あけ係
座右の銘「他力本願」


dewey Live
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6/5(金)大久保 ひかりのうま 
coherence(ねうちこき)/chinaprove/dewey
open 19:00 start 20:00
2000円+D
http://hikarinouma.blogspot.jp
↑絶対お勧め、テクノ・エレクトロニック好きな方
 カフェライブなので演奏中の機械群が間近で見られます。
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6/6(土)代々木Barbara
http://www.yoyogi-barbara.jp/sch_next.html

もう一週間切ってるのに詳細まだ出ぬもはやdeweyワンマンか(うそ)
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