2021/12/22

(No.2613): 晃一郎と吉之助(高円寺掲唱伝搬)

 

年の瀬。午後の日差しは柔らかだが道行く人々は襟を立て足早である。向かいの辻から亀住町行きの東京市電がガタコトと揺れて路地に消えていった。

その市電の通る表通りの辻に木造二階家がある。階下は道具屋になっており、仕入先のわからぬ怪しげな物品やどこかで拾ってきたのか万国の奇物を並べて商っている。道具屋の店主は晃一郎を気に入ったのか格安で二階の六畳を貸している。

六畳間に設えた一尺ほどの小窓はほんの少しだけ開けられている。それがかえって部屋の火鉢の暖を豊かにしているようだ。
その二階の六畳で晃一郎が白湯を舐めつつiPhoneをせわしなくスクロールしていたところに、階段をばたばたと上がってくる音がした。

晃さん、いるかい」
吉之助が無造作に学生鞄を放り投げながら畳に転がり込んだ。

「いるとわかって来てんだろ」
「うへへ、晃さん留守でも来ますがね」
「俺ァ、いま忙しんだ、おめぇの相手なんぞしてらんねぇんだ」

見下すように細い目をして晃一郎はそう言うと、またiPhoneに顔を近づけた。

「あに、やってんでさ、あっしにも教えておくんない」
うるせぇなぁ、おめぇにゃ関わりのねぇ、、ことよ。。。」

と言いながら晃一郎は顔を上げて吉之助をしばらく睨むと続けた。

「・・そうだ、おめぇ、二十七日は暇か」
二十七日ってぇと、次の月曜ですかい。あに言ってんすか、ひ、暇じゃぁねぇですよ。もう忙しくて忙しくて」

そう言うと吉之助は鞄を引き寄せてがちゃがちゃと開け始めた。

「ほーかい、じゃぁおまいさんは誘わないでおこう」
二十七日になんかあるんすかい」

白湯を一口飲んで晃一郎はにやけて言った。

「おめぇ、嘗ての”奴ら”は覚えてるか。。。軍装の」
「・・・ぐ、軍装って、ええええッ、奴らが現れるってんですかい!二十七日に!」
だから俺ぁこうして切符を買おうとしてたんでぇ」

iPhoneでイープラスの画面を吉之助に見せながら晃一郎は続けた。

「それが、おめぇの前(めぇ)だがな、奴ら第二形態化してデューイデルタてぇ名乗ってるらしいぜ。その名乗りも既に三年は経ってるってぇ噂だ」
「そ、そりゃ一体、どうなっちまったんですかね」
第二形態化ってぇのはよ、詰まるところ一人増えたてぇ話だ。しかも増えた奴ぁ、古の”和む”界隈での戦歴がある輩らしいぜ

それを聞くと吉之助は立ち上がり、その場でくるくると回りだした。

「こ、晃さん、おいらはもう居ても立ってもいらんねぇや」
「おめぇ落ち着けよ、話はそれだけじゃねぇんだ。それで二十七日、杉並特区高円寺の「はい」てぇ箱でおっぱじめるらしいんだが。。」

そこまで言うと晃一郎は、一尺ほどの小窓を閉めに立ち上がった。ついでに火鉢のやかんから白湯を湯吞に注ぎ、吉之助の前に突き出した。

「おめぇ、それ飲んで落ち着け」吉之助はあちあちと言いながら白湯をすすり大きく息をついた。

「それがよ、おめぇの前(めぇ)だがな、二十七日は奴らどころじゃねぇんだ。ハローイチイチゼロサン、ミウラトロン、呼吸するシークエンスうら」
「なんすか、そのおまじないは」
「おまじないたぁ、言い得て妙さな。おめぇきっと腰が抜けるぜ」
「こ、晃さん、二十七日はおいらも連れてっておくんない」


「”馥郁たる八茎の音薫” か。。」

晃一郎はひとりごちるとそれには答えず、イープラスの切符枚数を二枚とフリックしていた。



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呼吸するシークエンス#裏 12/27 (月) KOENJI HIGH 開場17:30 / 開演18:00 前売3000円 / 当日3500円+1D代 -出演- dewey delta 三浦俊一(miuratron) Hello1103 会場 → e+

有料配信 → ZAIKO

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