2021/02/03

(No.2590): 38年前の旅館での不思議な体験

今から38年程前、たぶん1983年だと思う。季節は3月下旬。
筆者は大学3年の終わりだった。当時はテクノ音楽制作に没頭しつつ、同時に寂れた湯治場、温泉や鉱泉に足しげく通っていた時期だ。
そのあたりの話は「(No.2332): 「温泉鉱泉と電子音楽の効能」のその前」や 「(No.2583): エフオピ 温泉鉱泉奇譚(その一)」に詳しいので是非ご一読願いたい。

それは友人Tと何度か訪れたF県の湯治場への旅行だった。確かこの時は360ccの軽自動車ではなく、筆者実家のクルマ、トヨタスプリンターで行ったと記憶している。
F県方面へは毎回そうなのだが、夜22時頃に出発する。都内を抜け国道6号から千葉県、利根川を越えて取手駅の手前を右折し、龍ヶ崎から北浦へ抜けるディープな細い道を好んで走った。途中K神社に寄るのも作法の一つだった。
51号から水戸市街を抜けるくらいに朝7時頃だ。そして我々の大リスペクト国道の一つ、349号でF県まで北上する。高萩あたりまで51号で行って内陸へ向かう道で349へ抜けるコースも編み出した。どちらにせよ概ね15時過ぎには到着する。

Y温泉は三軒の旅館が片寄せて建つ古くからの湯治場だ。三軒とも訪ねたことはあるが、我々は概ねI旅館を定宿にしていた。
I旅館は木造二階建。建物は古いが継ぎ足しで建てられているので昭和30年代から古くは戦前の古い部屋もあったのではないだろうか。温泉としては少なくとも江戸時代からある。
幕末に存したある御仁もI旅館に逗留したとのこと。
風呂場は渡り廊下で別棟にある。Y温泉は源泉36度くらいの男女混浴の温泉(38年前)。源泉人肌の温いお湯にそのまま長時間入るのがオツだ。上がり湯として加熱しているお湯もあるがあまり入ったことはなかった。

その日は15時過ぎに着いた。一階か二階か忘れてしまったが、継ぎ足されていない古い六畳の部屋だった。炬燵が暖かい。我々は疲れたー落ち着くーと言いながら炬燵にもぐり込んだ。夜通し走っているので疲れもピークだ。それぞれが炬燵に入ってごろんと横になりそのうち眠ってしまった。

どれくらい時間が経ったのか薄ぼんやりと目を開けた。外は真っ暗だった。寝た時はまだ明るかったので部屋の明かりも点けていない。
筆者の左側に友人Tが横になっている。二人しかいないはずなのに、炬燵にもう一人いるのだ。筆者の右側に。
筆者はその人に迷惑になるかもしれないからと足が当たらないように引っ込めて丸まった。これなら友人Tにも右側の人にも足が当たらなくて安心だ。そう思った。怖さは全くなかった。そのまままた寝てしまった。

二人が起きたのは18時を回っていただろうか。
起きたー?腹減ったねーと言いながら、「あ、そうそう、さっき起きた時もう一人誰か炬燵にいたんだよ!」と先ほどのことを話した。
そうすると友人Tの顔色がみるみる変わって、「僕ももう一人いるって思った!同じく当たらないように足を引っ込めてたよ。」と言うではないか。
え?まじで?ど、どこにいた?と聞いたら、筆者の右側、つまり友人Tの前にいたと。同じ場所だ。

その晩、布団を敷いて寝るとき、二人ともビビってなかなか寝付けなかったのを覚えている。
しかしそのあとは何もなかった。