2016/06/11

(No.2461): ツクグロウ鳥は二本脚


「三千世界の烏を殺し ぬしと朝寝がしてみたい」

熊野三山に伝わる三本脚を持つ八咫烏は熊野権現の使いとされ、導きの神との信仰もある。古くは古事記、日本書紀、あるいはキトラ塚古墳の壁画にも描かれている。

熊野三山には熊野牛王符と呼ばれる護符がある。他の神社の護符とは違い、特殊な烏文字で書かれ、熊野三山である本宮大社、那智大社、速玉大社、それぞれに異なる牛王符が存在する。

その熊野牛王符は古くから起請として使われている。
起請とは誓約のこと。熊野牛王符の裏面に起請文を書けば熊野権現に対して誓ったこととなり、この誓約を破ると熊野権現の使いである八咫烏が死に、(または烏が三羽死に)約束を破った本人も血を吐き憤死し地獄に落ちると信じられた。

だから古代から重要な約束事を定めるとき熊野牛王符の起請文が用いられたという。例えば豊臣秀吉が病の床にあるとき、徳川家康、上杉景勝等五大老・五奉行に秀頼への忠誠を誓わせた起請文を書かせた。

ところがそれが江戸時代になると吉原などの 郭で流行した。
遊女があなたのことが一番好きよとか、年季明けあなたと所帯を持つわ、などという内容の起請文を熊野牛王符に書きお客に渡すのである。受け取ったお客は熊野牛王符の起請文だから間違いはないと喜び、裏を返す(再び訪れる)のから始まり、マブと呼ばれるまでに何度何度も吉原へ足を運ぶ。

しかし実はこれは客を繋ぎ止めるための作戦で、中にはたくさんのお客に何枚も起請文を渡していた遊女もいたという。
落語の「三枚起請」は三人の客へ渡した起請文がバレた騒動のお話。
古今亭志ん朝「三枚起請」



幕末の高杉晋作が作った都々逸だとされる「三千世界の烏を殺し ぬしと朝寝がしてみたい」は、起請文を渡した男との約束を破ってでも朝寝をしていたいという遊女の想いを詠んだとされている。


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