2014/05/16

(No.2185): 晃一郎と吉之助(五月二十八日提唱会告知)


通りに面した一尺ほどの小窓は開け放たれ、
皐月の風は裏庭の躑躅の香りをのせて
この二階屋の六畳間の中を通り抜けている。


「・・ってぇのが先月の提唱会の顛末なんでぇ」

そう言うと晃一郎は湯飲みの冷めた白湯を
一息に飲み干した。
ちゃぶ台に向かい合って晃一郎と吉之助は
胡坐をかいている。幾分顔色の曇った吉之助は
救いを求めるような目で言い募った。

「するってぇと晃さん、もうあの軍装の連中は
て、提唱会をやらねぇってぇのかい・・」

「村岡の爺さんもまさかの顛末は想いも
よらなかったに違げぇねぇ。
軍装の彼奴らの操る機械が、まさか
壊れちまうなんてな」

「もうやらねぇんですかね、提唱会」

「ああたぶんな。あれほどの惨劇だったんだ。
立ち直れぁしねぇだろう。
おめぇももう忘れちまえよあんな軍装の奴ら」

「次は観たかったてぇのに返す返す残念でさぁ」

「まぁあんなもんは観ねぇ聴かねぇほうがいいに
決まってらぁ。 さぁ、話しは終めぇだ」

晃一郎は立ち上がると窓に干していた茄子の
絵柄の手ぬぐいを粋に肩に掛けながら言った。

「おい、俺ぁ今から湯ぅ使けぇに行くんだがよ
おめぇどうする」

「おいら・・帰ぇるよ」

「じゃ濱多屋んとこの角まで一緒に行くか」


晃一郎と吉之助が階段を降りて外の木戸を
開けたところで、部屋に残していた晃一郎の
iPhoneにメールが着信した。
しかし晃一郎達はそれには気付かずに
表通りに出て行った。

そのメールにはこう書かれてあった。

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件名:【緊急】提唱会 五月二十八日決行
宛先:裏神晃一郎 殿
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本文:
去る八日の多磨東区の軍律立憲に伴い
村岡翁の周囲で諜報支援の活発化を認むる。
これは提唱会用機械群の刷新を図っているもの
と推察。その勢いに乗じ渋谷区の軍律立憲に
加担せしめる旨報告あり。

その報告は以下の通り。

”来る五月二十八日、提唱会決行の令が
下った模様。
会場は渋谷ラストワルツ。
発布される暗号は
「礼銃は花橘の咲く短夜に
斗争の軍令を疾く撃ち込めるべし」”


軍装の二者が操る電子音塊は崇美なる
陋劣を纏うだろう。
村岡閥者より入手の添付画像をご参照のうえ
至急連絡乞う。

送信元:二乗林柾葦
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添付画像:

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