2015/05/07

(No.2339): 晃一郎と吉之助(連なる提唱会)


まるで夏のそれと見紛う日差しに晃一郎はしきりに首の汗をぬぐっている。照られてじりじりと暑い。東京市電の上野切通停留所で降りて表通りの辻を曲がると晃一郎の住処はすぐだ。その家の階下は道具屋で二階の六畳に間借りしている。その二階で待つ吉之助へ早く報せてやろうと晃一郎の足は急いた。

話は一時間ほど前に戻る。

銀座尾張町のカフヱ”コンプレキシテアーテ”で晃一郎は月読栄堯郎と向き合っていた。互いの青地金花詰に注がれた珈琲はだいぶ温くなっている。

「するってぇと何かい、奴らぁ提唱会を二日間も続けざまてぇやつかい」
「晃一郎くん、君ね、さう藪から棒に言ひ募るもんじゃぁなゐよ」
「こいつぁ驚れぇた、何がってそうだろうよ、ついこの前(めぇ)までまだ次の提唱会は決まっちゃいねぇってそう言ってたじゃねぇか」
「晃一郎くん、君ね、かうゐふものは急転直下さね、蓋を開けて見なけりゃわからなゐんさね」
「だいてぇ、奴らぁたった一回の提唱会ですらぁやるときやぁ何カ月も前(めぇ)から右から左へとご託並べやがるれんじゅうだぜ、それをおめぇ、しかもたったひと月あとのあたまに二日も続けるなんざぁ、どんな風の吹きまわしなんでぇ」
「晃一郎くん、君ね、彼らだとてね、さうゐふ時もあるんさね、或いはぁ、何をか腹にあるのやもしれぬん」
「こちとらそれぁ聞くなり金玉袋が縮みあがっちまったってのに。。。おい、まさか、元老院の差し金てぇことぁねぇだろうな」
「晃一郎くん、君ね、ちょいと、その名を口にしては憚られるでげすよ、さふだとしてもさね」
「げ、元老院が関係してるってぇことかい。。えれぇことになっちまった。。」

そこまで言うと晃一郎はすっと立ち上がりふらふらと店のドアの方へ歩み寄った。
「晃一郎くん、君ね、ちょいと、どこにゆくのさね、話はまだすんじゃぁおりやせんよ」

月読栄堯郎の声が聞こえないのか、晃一郎は思い出したように突然店の外に出て行ってしまった。誰もいなくなったテーブルに一人取り残された月読栄堯郎はひとりごちた。
「晃一郎くん、君ね、もう遅いんだわさね」

そう言い終えた月読栄堯郎の身体は徐々に透けていった。気付くとテーブルの上には二つの青地金花詰だけが残されていた。珈琲は既に冷めてしまった。




dewey 提唱会 報せ

・2015年6月5日(金)  場所: 大久保 ひかりのうま
・2015年6月6日(土)  場所: 代々木Barbara


dewey
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