2014/10/02

(No.2253): 江戸ことばあすび(一)


今回は江戸のことば、文化について
お話ししましょう。
この話しをするってぇとあたしは江戸弁に
なっちまうんで、ひとつご勘弁くだせぇ。

語源の話しでもあるんですが、
今はもう使わなくなりましたけれども
昭和のはじめ頃までは使われていたんですね。
何かてぇと、
例えば、お店で買い物しておあしを払おう
てぇときにお勘定が足りなかったとか、
あるいは、財布を忘れてきちゃったてぇことぁ
たまにあるもんです。
江戸の頃ぁこんなとき、お店の人が
お客さんのお宅まで一緒に行って
お勘定払ってもらうんですね。このとき、
お宅まで一緒に付いて来る人のことを
「馬」と言ったそうです。

「こないだ俺ぁ財布忘れて馬ひっぱってきちゃった」
「なんでぇみっともねぇ真似すんねぇ」
なんて使われてたんですね。

なんでこの人のことを「馬」と言ったか。
これは「なか」のことばだったんですね。
「なか」てぇと今の台東区千束三丁目あたり
このあたりは昔は吉原と呼ばれていたところ
になります。

昔ぁ吉原へ馬で通ったてぇ時代があったそうです。
日本橋、神田界隈から吉原へ出掛けることに
なりますってぇと必ず通るところが今で言う
蔵前通りの駒形橋あたり。
ここから松の並木道が続いていたそうで
ここに馬子さんがいて、吉原まで馬に乗って
行けたんだそうです。

それで吉原の入り口大門(おおもん)で馬を
降りるんですね。
一晩遊んで朝んなって、お店にお金を払うんですが
あすび過ぎ呑み過ぎでおあしが足らねぇてぇことに
なるってぇとお店の人がお客さんと一緒に大門まで
来て、帰りの客を待ってる馬子さんに
「ちょいとすまないけどねこのお客さまはねゆんべ
うちの店であすんでくだすったの、ちょいとね
お勘定が足らないの、すまないけれどもお供して
お勘定もらってきておくれ」
馬子さんは、お客さんを馬に乗せてお宅まで
行くんですね。馬は家に入れませんから
お勘定もらうまでの間、脇に馬をつないでおくんです。
だから、
「おー、トメんとこの角にまた馬がつないであるよ
こないだもそうだよ、あんちくしょうはよく馬を
ひっぱってきやがんな、しょうがねぇ野郎だ」
なんてことを言われるんですね。

で、馬子さんが預かったお勘定をお店に渡すと
お駄賃を頂けるというそんなシステムだったそうです。
ところが、お客の中には悪い奴もいて馬子さんを
まいてだまして逃げちまうなんてのもいたらしいんですね。
馬子さんの方でもちょっとまとまったお勘定もらったら
むらむらっと妙な了簡起こして店へ届けないで
そのまんまどっか行っちゃったなんてことも
たくさんあったそうです。
そういうことが度重なるってぇとこれじゃいけねぇ
ということで、もう馬子さんをあてにしないで
店の方から人を出そうということになり、今度は
店の若い衆(し)が付いて来る。
だから、馬の代わりに付いて来たんでその人のことを
ぞくに「馬」てぇことを言ったそうです。

この若い衆(し)のことを妓夫太郎、
詰めて「ぎゅう」なんてぇいいましてね、
「ゆうべ格子ですすめた妓夫(ぎゅう)が 今朝はのこのこ馬になる」
なんてぇ都々逸も残っておりまして本日は江戸のことば
「馬をひっぱる」についてのお話でした。
そりではまた。




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