2015/02/18

(No.2306): 晃一郎と吉之助(三月十九日提唱会告知 其の壱)


本銀町角駅に着いた東京市電から
寒そうにして晃一郎と吉之助が降りて来た。
襟を立てた黒の外套の晃一郎の手には
一枚のわら半紙が握られていた。
それにはこう書かれていた。


dewey提唱会報せ
とき  二○十五年 三月十九日 木曜
ところ 大久保 ひかりのうま


二人は本銀町(ほんしろがねちょう)の珈琲店
コンプレキシアーテで二乗林柾葦と待ち合わせをしていた。
待ち合わせにはまだ幾分の時間があるものの
この寒さで晃一郎達の足は急いた。

「それにしても晃さん、二乗林さんの話しってぇな
いってぇなんですかね」

袖から出た素の腕を組み寒さで肩をいからせて
吉之助が言った。厚手の褞袍を羽織ってはいるが
中はいつもの浴衣である。

「おめぇその格好で寒かぁねぇのかい」
「こちとら江戸っ子でさ、これっくらいの寒さなんざ
ぬるま湯みてぇなもんです屁みてぇなもんですよ、、
ってぇ言いてぇとこなんですが寒いもんは寒い」
「そらみろ、市電の中ぁまだいいが降りたら寒いぜ
あれほど襟巻きして来いと言ったじゃねぇか」
「その珈琲屋ってぇのはまだ遠いんですかね」
「すぐそこだ、早ぇとこ店ぇ入っちまおうぜ、
そこの先の角ぉ曲がったとこだ」

その時北風が強く吹きすさび、晃一郎の持っていた
わら半紙があらぬ方向に折れた。

「いけねぇ、懐に仕舞っておこう」
「晃さん、二乗林さんの話しってぇな、その半紙に
書いてあることに関わりがあるってこってすよね」
「まぁ、そういうこった、例の「鹵獲御旨の発布」
を後ろ盾にあの軍装の連中がまた何かやらかすって話しだ」
「結局、新たな提唱会の絡繰りなんですかね」
「そいつを奴から聞こうってぇ腹だ、さぁ着いたぜ」

晃一郎は期待と不安のなか珈琲店のドアを開けた。






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