2024/02/05

(No.2652): クルマ奇譚(ホンダN360 編)

 前回のあらすじ


ホンダN360は4サイクル空冷2気筒SOHC360ccエンジン
前輪駆動で4速トランスミッション。
シフトレバーはシトロエン2CVと同じダッシュボードから生えている。
三角窓がありベンチシートをあしらった素晴らしい名車だ。

購入したN360は1968年式だったと記憶している。
内外装共に非常に綺麗で、茶色の偽革シートが
ピカピカ光っていたのをよく覚えている。
機関も好調でまったく問題はなかった。
色はシルバーグレーだったように思う。

友人TがNIII360に乗っていたので、
並走するとそれは見応えのある絵になった。
しかも大学時代の友人KがホンダLIFE360を買ったので
1987年のゴールデンウィークにはN360、NIII、LIFEの
ホンダ360ccシリーズ3台揃い踏みで
福島方面へ温泉ツーリングへ出掛けた。
その旅で3台を並べて写真を撮った記憶があるのだが
残念ながらその写真が見つからない。

N360で走るのが楽しくて
北関東、東北などアヴァンギャルド温泉鉱泉旅で
ずいぶんと走行距離を稼いだ。
エンジンは快調だが山などでの長い急な登り坂では、
パワー不足でけっこう息切れもしていた。
そんな時は一般後続車を先に行かせるなどして
特段不便も感じなかった。
面倒くさいことが楽しかった。

故障らしい故障はなかったが、
唯一筆者自身のミスで修理したことがあった。
スパークプラグを交換したときに、
エンジン側のネジ溝を誤ってナメてしまった。
プラグ締め込みが十分にできない状態なので
圧が抜けてしまい1気筒爆発しなくなった。

片側の1気筒エンジンのまま
近所のホンダディーラーへ駆け込んだ。
外様の飛び込みで、且つ面倒な古い車なのに
メカニックの方はとても丁寧に対応してくれた。
幸いにもその場でネジ溝を正しく切って整えてくれたうえに
退店する際には
「ホンダの古い車に乗っていただいてありがとうございます!」
とお礼まで頂いた。
そんなことされたら一生の車を手に入れた感慨に耽りたくもなる。


しかし、人間とはなんと業の深い存在なのでしょう。
立川談志師匠は、落語とは”業の肯定である”と仰っていた。
どうしようもない人の行いや想いを肯定する世界の存在は
我々にとって大いなる救いになっている。

環境の変化など何かの切っ掛けで人の嗜好は
ガラッと変わることがある。
そんな想いの全てを肯定しようと
1987年夏の終わり頃、
筆者はN360を降りる算段を始めたのだった。

あれほどご執心のN360だったのに
一体何があったというのだ。
N360に乗ってわずか半年。
しかも前車のホンダZに至っては
たった3か月で降りてしまったではないか。
心移りにもほどがあるだろう。
お金も何もないのに一体お前は何を考えておるのだ。
馬耳東風。

何故なら当時筆者は
東京H市の欧州中古車販売店Wに展示されていた
ある車に魅入られていたからだ。
その車は1972年型フォルクスワーゲン・タイプ3だった。
年式こそN360と同世代だが、今まで乗ってきた
360cc軽自動車達とはまったく異なるタイプの車。

しかも、外車だ。
1987年9月、
意を決して、否、
機が熟して、
N360を送り出す決心をした。


しかしこのフォルクスワーゲン・タイプ3が
筆者車歴史上嘗てないほど最大の地獄の試練に
なろうとはこのときの筆者は想像もしなかったのである。



フォルクスワーゲン・タイプ3編 エピソード1へ 続く


車歴参考年表





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