2024/02/06

(No.2653): クルマ奇譚(フォルクスワーゲン・タイプ3 編 エピソード1)

 前回のあらすじ



欧州中古車販売店Wは、
社長(40歳くらい)とメカニックさん(20歳代)の
2名で営業していた。
お二人とも面倒見の良い人たちで、欧州車についてまったく
知らなかった筆者にいろいろなことを教えてくれた。

このお店は中古のポルシェを中心に扱っており、
国内はもとよりヨーロッパ各国から直接買い付けるという。
もちろんポルシェ以外の欧州車も広く扱っていた。
その中にこのフォルクスワーゲン・タイプ3があった。


1987年9月吉日。
欧州中古車販売店WにてホンダN360を下取りとし

訂正:  下取りはできずKモータースへ売却


フォルクスワーゲン・タイプ3を納車した。

1972年型の2ドアノッチバックセダンで色はガンメタ。
2本出しのクワイエットマフラーが唸る
空冷水平対向4気筒エンジンをリアに積んだRR、
電子式燃料噴射いわゆるインジェクションを搭載した
1600ccモデル。
ディーラー車だったのでハンドルは右だった。
確か車体価格が62万円の値札がついていたと記憶する。

車体や内装は年式相応にヤレていたが、
なんというか押し出し感があって力強さがあった。
大好きな三角窓も装備。
クワイエットマフラーという名前なのに
排気音が重低音爆音だったのも気に入った。



最初にこの車の洗礼を受けたのは、
いきなり納車の日だった。

欧州中古車販売店Wで車を納車後、
一旦自宅へ戻り地元同級生友人Nを乗せて、
新宿のディスコへ行くことに。
ガソリンを満タンにして、
重低域排気音を奏でながら走っていると、
ねーガソリン臭くない?と友人Nが聞く。
うむ言われてみれば確かにさっきからガソリン臭い。
ガソリン満タンにしたからじゃないの?
そうかなーでもそんなことある?


ガソリンスタンドよりもむしろガソリン臭がする車内。
これは只事ではない。尋常ではない。
急いで車を路肩に停めエンジンを切る。
エンジンルームのあるリアラゲッジを開けようと
車の後ろに回ったら、
液体がこぼれた跡と思われる染みが
道路に線を付けているのを見た。

この液体は間違いなくガソリンだろう。
マジで?ガソリンが漏れてる!

慌てて車の下をのぞき込む。
ぽたぽたと液体が滴っている。
すぐにエンジンルームを確認したら
燃料ポンプと思しき部品を中心に
エンジン全体が夥しく濡れている。
この臭い、けっして水ではなく
ガソリンである。びしょ濡れ。

いや、漏れすぎだろうガソリン!
てか、危険!危険すぎる!
タバコ絶対禁止と叫ぶ両名!
(当時はタバコ吸ってたので)
道路路面に描かれた漏れガソリン跡は
すなわち導火線と等価である。

運の良いことに、(運とは?)
欧州中古車販売店Wに近い場所だったので
お店に戻るため恐る恐るエンジンを掛けて、
ゆっくり急いで向かった。


社長さんに
ガソリンが漏れているようなんですけどと言うと
ちょっとみてみましょう、
ああーだいぶ漏れちゃってますねー
燃料ポンプかなー
と言ってエンジンを掛けた。

アメリカのアニメで見たことのある
溺れた人を助けたら口から水をデフォルメされた
噴水のようにピューっとM字になっている映像。
正しくその情景が燃料ポンプのゴムホースの亀裂から
ピューっとガソリンの噴水。
筆者と友人Nの顔に縦線。

社長は明るく、
ここのホースが劣化しちゃってたんですねー
交換しておきましょう。

いや、納車前にやっておいてくださいマジで
と心で叫んだ。
また切れるとアレだから、これ差し上げますよ。
と新品の交換ホースを頂いた。

社長は言った。
「古い車だからこんなのは普通ですよー
これくらいは自分で直さないとねーあっはははh!」

このセリフは今でも友人Nと笑い話として語り継がれている。
なお、この時ガソリンを満タンにしたのに
欧州中古車販売店Wに着いたときはほとんど空になっていた。
よく火災や事故にならなかったと思う。

カルマンギアの大人しい版といった佇まいが素敵な
フォルクスワーゲン・タイプ3であるが
快調に走っているときはこんなに楽しいのに
筆者のフォルクスワーゲン・タイプ3は
すぐに機嫌を損ねる厄介な車だった。

この納車日の出来事は予兆に過ぎなかったのだ。



フォルクスワーゲン・タイプ3編 エピソード2 へ続く



車歴参考年表




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