■
「ゲール、ゲールはいずこぞ」
「はは、ここに控えおりまする」
「ゲールよ、その”おりまする”の”る”の用法じゃがな」
「はは、なんなりと」
「なんかこう、その”る”の蔓延り方がのうなんちゅうか
もうサイヤサイヤと来るような心にねサイヤサイヤとね」
「サ、サイヤサイヤというのはどのような
状態なのでしょうか」
「そりゃおめぇあれだ、
”三千世界の烏(カラス)を殺し、主(ヌシ)と朝寝がしてみたい”
てぇくらいサイヤサイヤするてぇやつよ」
「わたくしにはさつぱりと、その要領を得ぬものですから」
「なんでぇ、こんな都々逸もしらねぇってのか
今からよっく聞かせてやるから耳の穴かっぽじって
聞いてやがれこの野暮天野郎
江戸天保の世にゃカラスが多かったてぇ話で、
朝になりますてぇと腹ぁ減らしたカラスが群れで
カァカァ鳴くんだそうです
鳴いておかみさん連中を起こしてゆんべの残りもんを
捨てに来るのを狙うてぇんですからねぇ
カカーカカー起きろ、カカー起きろって、
で、その時分のナカ(吉原)にもカラスてぇな
沢山いたそうですな
ナカで働く花魁芸者にとっちゃ、やっぱり嬉しいのは
起請を受けたマブな奴てぇくらいで、年季明けで
夫婦にでもなろうなんてぇ約束交わした野郎との
逢瀬一夜といいます
そんな一夜を明かした朝にカラスがカーカー鳴いて
起こされるのはたまったもんじゃねぇ、てぇんで
この世のカラスを全部殺しちまって、マブな、
主(ヌシ)と朝寝がしてみたいてぇ粋な都々逸で
サイヤサイヤこねぇかい」
「きません」
0 件のコメント:
コメントを投稿