2014/02/14

(No.2138): 遠巒の廻廊(六)


「キミの言わんとしていることはわかった。
つまりキミはこう言いたいんだろう。
セジュウィッチバーグ博士はどこだ とね」
「だからさっきから言ってるじゃないですか
そんな言葉遊びをしている場合ではないのです」
「失敬、でもまぁ落ち着きたまえ、ええと、ヤン君、
だったね」

ワイマールの問いにヤン・ヨークビンセントは
答えずに続きを待った。

ここはワイマールの研究所。既に他の所員は全員退所
しており、残っていたのは所長のワイマールだけだった。
帰り支度をしているところにセジュウィッチバーグ博士の
助手であるヤン・ヨークビンセントが訪ねて来たのである。

「それは僕の方も知りたいのさ。フェルディには連絡が
取れないんだ。あれから」

フェルディとはフェルディナンド・セジュウィッチ
バーグ博士の通称で、親しい友人達からそう呼ばれている。

「僕も心配だ・・」

ワイマールは不安げに首を横に振った。

「キミも知っている通り彼から放射性炭素年代測定を頼まれた」
「はい。結果をあなたから聞かされて先生は驚愕されて
いました」
「ああ、あのあとすぐに彼と会ってね、借りていたブツを
返すためにね」
「そうでしたか、それはいつのことですか」
「うんもう二ヶ月も前になるか、たしか2月の初めだった」

そういうとワイマールはiPhoneのリマインダを確認した。

「うむ、間違いない、2月7日に会っている」
「そのあと、電話でも先生とはお話しになっていないのですか」
「ああ、こちらも忙しくてね、あれからしばらく電話をして
いなかったんだがね、やはりあの結果が気になってね、
確か二週間かそれくらい前に電話をかけたんだ。
あ、奴の携帯にね。電波の届かない場所にいるらしいが」
「そうなんです携帯はつながらないのです。自宅にもおりません」
「奴は、フェルディはいつからいなくなったんだい」
「まさしく二ヶ月ほど前からなんです」

そういうとヤン・ヨークビンセントは自分のアンドロイド
スマートフォンの画面をワイマールに向けた。
そこにはメールの文面が映しだされており
こう書かれてあった。

<ヨークビンセント君 至急調べてくれ 古代ケルト語の
亜種、サフォン語のことを。そのなかの体系にデュイという
文字があれば   >


「このメールを残して連絡が取れなくなりました」
「なんで調査依頼をわざわざキミにメールで送りつけて来た
のだろう直接キミに言えばよいものを」
「そうなんです。こんなこと初めてです」
「しかも、このメール、途中で終わってるな」
「はい。心配です」
「”あれば”、何だというのだろうか。で、キミはこのサフォン語
とやらを調べたのかね」
「はい、少しですが」
「何かわかったのかね」
「残念ながら”デュイ”という文字は見つかりませんでした」
「”デュイ”か・・・ どういう意味なんだろうね、しかしなんで
フェルディはそれをキミに調べさせようとしたのだろう」

ワイマールの腕時計が21時の時を告げた。
ピピ

「ヤン君、今から一緒に来てくれないか」
「どちらにですか」
「ん、例のブツがまだ奴の家にあるのか気になる」
「そうですね、何か手掛かりがあるかもしれません」
「よしフェルディの家へ行こう」

明かりを消すのも忘れて、ワイマールと
ヤン・ヨークビンセントは慌ただしく部屋を後にした。


(続く)






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