2016/02/23

(No.2436): 中佐と二等兵の会話(酒宴編)


酒の飲めない筆者は飲み屋に行かない。いわゆるお仕事の関係などでの飲み会に誘われた時は仕方無く行く。先日も遅い新年会だという飲み会。酒場では烏龍茶。筆者が呑めないことは周知なので黙ってても烏龍茶が出てくる。

会も終盤にさしかかったとき、少し離れて座っていた二歳年下元同僚であるが今や中佐クラスで部署最高責任者的な男が、無役老兵二等兵の筆者の前に移動してきて酔った口調でこう言った。
「エフオピさん、まだやってんの?テクノ」

彼とは昔、ブルースロック系バンドをやっていた。筆者がドラムで彼はボーカルとギターだった。そういう意味では上司と部下の関係の前は音楽仲間でもあったのだが、いかんせん筋金入りのロックンローラーなので昔からテクノやら電子音楽やらを小馬鹿にする傾向があった。

「あー、やってますよ、ライブも」
「へー、どこら辺でやってるの」

と聞くので、ここ最近出演したハコを数店あげた。全て知らなかったようで特にリアクションもなく、
「もう最近はさー音楽できないよねー疲れちゃって」
と同意を求めて来た感じだったが、筆者は全然そう想うはずもなく、しかし空気を読み「そーすねー」と返した。

部署最高責任者中佐男はその後暫く他の人と話をしていたが唐突に「エフオピさん今何乗ってるの?」と聞いてきた。
「クルマ?」
「バイク」
「ドカティですよ、前も話したやつ」
「999だっけ?」
「モンスターすよ696」
「知らねぇなー、俺の知ってるドカッティは900のなんとかってやつでフルカウルで緑と赤と何かのトリコロールのやつ」
「あーあー知ってます900MHRだっけ旧車ですよね」

そこに隣に座っていた後輩君が話しに入ってきた。
「エフオピさんのバイク、ドカティだったんですか」
「そうだよー」
すると部署最高責任者中佐男が後輩君に言った。
「ドカッティってさ、なんでうるさいか知ってる?」
「ウルサイんですか?」
「うるさいじゃん、ガシャガシャって、あれはさエンジンのピストンがこうガクガクってなってうるさいんだよ」
「へー」

それを聞いて筆者は黙っていられなくなって思わず言った。
「違いますよ、あれは乾式クラッチの音です」

そしたら部署最高責任者中佐男が「はぁ?乾式ぃ?」と目をぱちくりさせた。
「そうです、普通クラッチ板はオイルに浸かってって密閉ケースに入ってますよね、これは湿式で静かなんですけど少し前までドカティは乾式っていってクラッチ板がむき出しだったんです。でクラッチ板は回転してるでしょ、剥き出しで回転してるんであのガシャガシャ音になるんですよ」

と、ドヤ顔で言い放ったあと、なんとなくマズイ空気になったのを察して慌てて
「で、でもあのガシャガシャ音は中佐男さんの言うように確かにエンジンでも鳴っててさ、エンジンのバルブは普通スプリングで開閉したりするけどドカティはバルブの開閉は機械で強制的にやってるんで、それでガシャガシャ機械音もするんだよ」
と後輩君に無理やり説明した。

その流れで「その構造をデスモドロミックっていうんですよ!」
と巻き舌でさらに一層のドヤ顔を添えて、しかも部署最高責任者中佐男に向けて言ってやった。すると部署最高責任者中佐男はこう言った。
「な、嫌だろうーこの人、なんかちょっと知ってるからって知識をひけらかしてー、もーただのヲタクなんだよテクノ野郎なんだよ」

筆者 「あはははははは」(一つも可笑しくないが笑いでご機嫌を伺う)
後輩君「あはははははは」(行き掛かり上仕方無く)

と笑った。








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