2025/06/25

(No.2677): 畑道の出来事

夕方、雨も上がったので電子工作用の小物を買いに
ウォーキングを兼ねて数キロ先のホームセンターまで歩いた。
その帰り道の出来事。

普段からウォーキングはディープな住宅街
あるいは雑木林や畑などが広がるような
なるべく静かな道を歩くようにしている。

ホームセンターで買い物をし、
今日も幹線道路を避け古道に沿って人通りのない
畑の広がる道を歩いていた。
時刻は18時頃だろうか。
夏至の只中なのでまだまだ外は明るい。

道の右側は近隣農家のやっている畑が広がっており、
畑と道との境には目の高さほどもある垣根がずっと続いている。
左側は人家が軒を連ねているが人が住んでいないのか
どれも雨戸が閉まっている。


その畑の道に入ってすぐ突然、右後方辺りから
女性の声で「うふふふふー」という笑い声が聞こえた。
かなり大きな声だった。
ほぼ耳元すぐ右後ろから聞こえたので反射的に振り返った。
誰もいない。

ええ?! 
と一瞬ギョッとしたが、
垣根があって畑が見えないのでこの垣根の向こう側で
農作業をやられている方だなと理解した。

しかしその笑い声以外に何も聞こえない。
女性の声は40代か50代くらいだと思う。
「うふふふふー」の語調は、誰かと会話をしていて
愛想笑いで相槌を打つようなニュアンスだった。
だから、必ず話し相手がいるはずである。
しかし、一切何も聞こえない。


この先で右に曲がる道がありそこを曲がれば垣根が無い。
だから畑の中を見渡せるはずだ。
そうすれば、先ほどの声の主や話し相手の人も
しゃがんで農作業をやられている姿を見られるに違いない。


一刻も早く確認したい心持で
早歩きですぐに右に曲がって畑を見た。
誰もいない。
雨上がりの畑がただ広がっているだけだ。

え?マジで。。

ちょっと待て、合理的に考えよう。

こういう仮説はどうだ。
畑の道の手前にも交差点があるしその道で
自転車に乗った女性たちが筆者の後方を
右から左へ走りながら会話していた、
その通り過ぎる一瞬の笑い声だけ筆者が聞き
振り返った時にはもう走り去ったのだ、
という仮説は成り立たないだろうか。

そうに違いない。

いやでもなー、
自転車の音なんかしなかったし
あの笑い声ほぼ耳元で聞こえたよな。
もう真後ろって感じだったよな。

いやいやいやそういうことは考えますまい。

左側の人家から聞こえた声?
という仮説も考えたが、
そもそも人が住んでなさそうだし、
雨戸が閉まっている家の中からの声とは考えにくい。
本当に大きな声だったのだ。
しかも、はっきりと。くっきりと。
「うふふふふー」
って。

いやいやいやそういうことは考えますまい。

おそらくは、
前述の自転車仮説が有力なんじゃないかと
そうだったに違いないと
なかば強制的に言い聞かせながら帰り道を歩いたのでした。


おしまい


2025/05/14

(No.2676): 床屋を訪なう。(純真編)

 「ツーブロック」と書かれた床屋カードを持ち
約一か月ぶりにくだんの床屋さんへ。

担当は店長ではないもう一人の大柄な方。
この人もそうとうな手の圧の持ち主だ。

「ぐるっとツーブロックですね?」
その大柄の理容師さんは聞く。
「あ、はい」と答えた。
ぐるっと?


思いのほか、ブログネタになることは起きずに
散髪は進んだ。
しかも筆者の思い通りの髪型にハサミを
いれてくれている。

洗髪、髭剃りも滞りなく終了。
最後に仕上げというか髪を乾かす段。

その大柄の理容師さんは大きな手で
筆者頭をばたばたばたばたばたばたばたたばt
と激しく叩き出した。
尋常でない手の圧だ。これはやばいぞ。
筆者脳、大丈夫か、耐えられるか。
まだ叩いてる。

一瞬叩くのをやめたと思ったら、
ドライヤーを持ち出してからも
筆者頭を再びばたばたばたばたばたばたばt
いやものすごい圧だ、手加減なし、
え?ここ?今回はこのタイミング?
と思ったら、突然笑ってしまった。

「ぐふッ」

以前の筆者の髪型と違って現在はいささか長髪
(といっても以前と比して)
そのため乾かす時間が長くなったのだろうが
櫛とかブラシとかそういうものでできないものか
素手でもいいんだけど、
もっと優しくー圧がすごいのよー頭痛いー
南無三宝!と念じたら
ふんわりブローに遷移して事なきを得た。



床屋を出てからの帰り道、旧友N宅の前を歩いてたら
ちょうど旧友Nが家の前に出てきた。
「おうーNー」
「おうエフオピ、え!?何その中学生みたいな髪型?」


最高だ。



2025/03/07

(No.2675): 新環境へのギア(音響探求編

発端は、
MacBookPro(intelチップの古いやつ)の
バッテリー消耗だった。

dewey deltaのスタジオリハ中に
突如筆者のMacBookProが落ちた。
落ちたといっても重力による落下ではなく
電源が切れたのだ。(ベタ)

なんだーバッテリー0%やんけ。
充電充電。
で、その場は切り抜けられた。

その後ライブを数回やったが
とくに問題なかった。
ところがその後
満充電のはずなのに
同じ事象が頻発し始めた。
そして充電すらできなくなった。

新宿Appleストアへ赴き検査を受けたら
バッテリー老朽化で交換必要との結果。
しかしレガシー製品なのですでに部品無し。

ライブも迫っている。
万事休す。
新しくMacを買う理由を正当化しつつ
結局 M4のMacBooKProを
清水の舞台から大ジャンプして購う。

六道の辻を上ると清水寺にいく。
平安時代、小野篁(おののたかむら)は
地下世界、地獄と行き来していた
という伝説がある。
小野篁の屋敷は六道の辻にあり、
現在でもその屋敷跡にある六道珍皇寺には
地獄へ通じる井戸が残されている。


過日久々のdeweyでスタジオ入り。
tairaさんのRME BabyFacePro FS
圧倒的な音圧がいつにもまして染みた。
筆者のMOTU UltraLite mk5も音質や
入出力など決して悪くはないのだが、
RME BabyFacePro FSと比較すると
スピーカーの前を半紙で覆っているような
一枚隔たった音質の柔らかさを感じた。

MacBooKもM4になったし
もうこなったら怖いものなどない。
そうさ、俺は何でもできるのさ。
RME BabyFacePro FSの購入ボタンを
購入ボタンを購入ボタンを
押すことなんて
歯についた青のりを取ることより簡単さ。

RME BabyFacePro FS、
M4 MacBookProでのセットアップに
多少てこずったが、ずば抜けた動作安定性
何より出音の解像度の高さに目をむいた。
エンジンに例えるとトルクがすごい。
低回転からものすごいトルクが発生する。
一生モノとは大げさだろうか。



ライブ用折り畳みテーブル。
8Kgとかなり重いので、
もちっと軽いやつを物色。
日本製で5Kgほどで同じサイズを発見。
しかも耐荷重は30Kgもあるので今までのよりも良い。
Moogも置ける。

お客様からお誕生日プレで頂いたクーポンを
利用させていただきさくっと購入。
ありがとうございました。


六道の辻に、幽霊子育飴屋さんがある。


2025/01/28

(No.2674): 新環境へのギア(鉄馬探求編)

前回の「床屋を訪なうシリーズ」の中でも書いたが
今年は筆者にとって生活の基盤がガラッと変わる
節目の年なのである。
変わることによりランニングコストを低く抑えなければならぬ
というファクターを要求される。

様々なコストがあるうちの中でどれを抑えるべきか。
脳内検討は進められ一つの解を得た。
即ち。

車検のないオートバイに乗り換えよう。だ。
車検費用はそこそこ馬鹿にならない。


オートバイに詳しくない方のために少し説明すると。
日本の法律では250cc以上の排気量のオートバイは車検が必要だ。

日本の一般的なオートバイの排気量クラスは
二輪運転免許の仕様に沿っている場合が多い。

即ち、
小型二輪免許 = 125cc以下
普通二輪免許 = 400cc 以下(250クラス、400クラス)
大型二輪免許 = 制限なし
(※原付は省略)

上記の中で
いわゆる250(にひゃくごじゅう)と呼ばれているクラスの
オートバイは、実際の排気量は249ccなので車検は不要なのだ。
(法定点検は必要)

余談だが、オートバイのナンバープレートを見れば
車検のあり/なし がわかる。

車検あり = 白地に深緑色の枠ぶちがある(400以上)
車検なし = 白地のみ(250)、または ピンク色、黄色(125、90)
(※原付は省略)


筆者のオートバイはストリートカップという
英国のトライアンフ製である。
排気量は900cc。
だから当然、車検がある。

翻って車はフィアットパンダである。
排気量は875ccというオートバイよりも小さいが
もちろんこちらも車検はある。
車検は2年に一度のこととはいえ、
外国車の車検を2台分も賄うのは、新環境では著しく厳しい。

従って、
オートバイは車検をなくすことができるゆえ
大好きなカフェレーサ仕様のトライアンフストリートカップを
手放すことにした。
とはいえ、オートバイ自体から降りるという選択肢は、
筆者にはなかった。

だから、
車検のない250クラスのオートバイに乗り換えよう
ということに脳内検討にて決定した。


さぁ、では何に乗ろうか。
基本は中古車だ。
コストを抑えなければならない。
もちろんです。
と久しぶりにgooバイクなどを閲覧したが
筆者の琴線に触れる予算内アンド年式指定
現行の国産中古250バイクは皆無だった。

外車ではMUTT AKITAがいいなと思っていた。
が、諸事情があり国産の250と決めていた。


絶望しながらネットを徘徊していたとき
偶然目に飛び込んできたオートバイに目を奪われた。
エストレヤ?いや、これエストレヤちゃう。
そういえばモーターサイクルショーでみたやつじゃん。

カワサキ メグロS1W230

出たんだ!これ。
これよ、これ。こーゆーかたちよ。
筆者が最初に乗った自動二輪はカワサキ エストレヤだった。
彷彿!ほーふつぅう!って声出た。

これ中古車あんの?メグロとかW230って。
よくよく調べたら2024年10月に出たばっかりでまだ中古車がない。
どうりで中古車情報サイトになかったのか。

カワサキ メグロS1 と W230は兄弟車。
フレームもエンジンもぜん-ぶ同じもの。
外装がメグロのほうがメッキ多かったり
タンク外装が違ったりするくらい。
ほぼ同じバイク(に見える)。

速攻でカワサキプラザの某店へ飛び込む。
なんと、メグロS1は抽選とのことでしかもすでに抽選終了で次回未定。
買いたくても買えないんだ。うわー。

W230は展示車あった。
跨ったらもうおしまい。
ナニコレ、軽ッ!、足つきべた、タンク意外と大きくみえる、
2眼メーターいいね、
それより何より空冷単気筒!空冷単気筒!
この時代空冷エンジンって貴重な気がする。
W(ダブル)だけど単気筒。
そして下取り車トライアンフの査定が良すぎて即決。

店員 大型から250へダウンサイズですか!?
わし え、ええ・・・ そんな人いませんよね
店員 いやいやけっこう多いですよ
   (あんたみたいなおっさんに)



僕はカワサキW230に乗り換えました。(納車未定)
1行で済む話だ。



2025/01/21

(No.2673): 床屋を訪なう。(変貌編)

 実は今年は筆者にとってエポックな年なのだ。
正確にはエポックになるであろうと思われる年なのだ。
取り巻く環境がガラッと変わりつつある。
いろいろ変わるので便乗して、ひとつ髪を伸ばそうかと。
であるからして、2週間に一度は通っていた床屋さんへ
ここしばらく行ってなかった。

ちいかわの「栗まんじゅう」のような
一応ソフトモヒカンと呼ばれていた髪型だったので
それをほっぽらかしにしておくと
変な感じで髪が伸びてくる。

このあたりで一辺床屋に行って
揃えるくらいに整えてもらおうかと思い、
平日の午後という完全リタイヤ人生の王道的
シチュエーションでいつもの床屋を訪なった。


ここの床屋はスタンプ押してもらうカードを発行しており
そこにその人の散髪内容がメモされている。
筆者のカードには、「ソフモヒ」「1ミリ」と書かれている。
つまり刈り上げ部は1ミリのバリカンでソフトモヒカン
という意味である。
しかし髪を伸ばそうと決めているので
そのままカードを渡してしまってはダメだ。

「髪を伸ばそうと思っているのでソフモヒはやめます
今日は揃える程度でお願いします」と告げた。

「わかりました。横とかは3ミリくらいのバリカン入れますね」

「え?バリカン入れるんですか」

「今、中途半端な伸び方だから生え際はバリカン入れておかないと
伸びた時に揃わなくなりますよ」

お任せすることにした。
確かに、現状の髪型がかなり変なので
いい感じにやってもらえるなら嬉しい。


しかし名うての理容師さんも
中途半端に伸びつつある状況をいい感じにする
打開策はなかったらしく
筆者の依頼通り揃えるくらいで終了になった。

洗髪、髭剃り後、最後に髪を整える工程。
ドライヤーでこねくり回していくと
そこには昭和40年代のおっさんがいた。
最高だ。

(凡例)








2025/01/10

(No.2672): 遠巒の廻廊(十七)

 

直近バックナンバー


菅井は「お茶淹れてまいりましょう」と言って広間を出ていった。
月草寺先生と呼ばれるその男は向き直ると、笑顔で続けた。


「あんた、みたとこ方言もないけど、どこ?東京?」
「あ、はい。東京です」
「東京のどこ?」
「はぁ、国分寺ってとこです」
「国分寺!そいじゃ府中の隣じゃない。そうかい」
「府中にお住まいだったんですか?」
「ん? いやそうじゃねぇんだけどね。あんた俺の顔知ってる?」
「は? 」

ぜんぜん覚えのない顔。こんな髭面に知り合いはいない。
というか昭和44年ならわたしは6歳だったし覚えているはずもない。

「俺も当時はいくらか若かったし髭もなかったしな。と言ってもあのモンタージュ写真は冴えなかった」
「モンタージュ?」
「ぜんぜん似てないよな。俺に。だから知ってるわけないか ははは」

月草寺先生は笑いながら袂から煙管とマッチを取り出した。

「昭和44年といえばわたしは6歳でした。すみません、覚えがないです」
それには応えず、
「この時代だと火をつけるのが億劫でね。菅井さんにもらったんだよ。
外では使うなって言われてるけどな」

月草寺先生は古びた小さなマッチ箱をわたしに見せながら、
「俺、3億円事件のひと」と言った。
そして器用にマッチで煙草の草に火をつけると煙管をうまそうにふかし始めた。

何のことかわからなかったがすぐに思いついた。
わたしが子供のころ日本中が大騒ぎとなった現金強奪事件だ。
府中刑務所前の道路で白バイ警官に化けた男が、
電機会社のボーナス3億円を積んだ銀行の車ごと強奪した事件だ。
結局犯人は捕まらず時効となった。
当時大学生だった叔父は国分寺市の恋ヶ窪に住んでいたが、
国分寺周辺が捜査範囲だったこともあり警察に何度も調べられたと話していた。

「え!?あの3億円事件の、犯人さんなんですか!」
「犯人さん?ははは、まぁそういうことだ。だけど結局この有様さね」

月草寺先生は煙管を口に咥えながら両手で着物の袂をつかんで広げてお道化てみせた。

「昭和44年の正月ころにこちらへ連れてこられたとおっしゃっていましたよね。
いうことは事件直後にはすでにあっちの世界にはいなかったということなんですね」
「そうなのよ。捕まらないわけだよね」

「まぁまぁ、そんなことよりも、おかめ団子をいただきましょうよ」
そう言いながら菅井がお茶を運んできた。




月草寺先生がお茶をすすりながら広間の隅にある二つの箱を見て
「ああ、忘れてた、スクナ様が来たって?あの箱かい?」と聞いた。
「はい。もう起きなさると思いますよ」
「どうってこたぁねぇが、そろそろ別な世で過ごしたいもんだよ」
「お望みがあれば試してみますが、スクナ様次第ですので。。」

菅井と月草寺先生がそんな会話をしているものだから思い切って聞いてみた。

「わたしは元の時代へ戻れるのですか?」
「それもスクナ様次第です。が、念のため服をあなたへ渡すように藤助に言っておきました」

ああ、服はもらったよと言い終わらぬうちに
広間の隅にある木枠の箱が突然、ぬしっと動いた。
ように見えた。
恐る恐る見ていると、やはり箱がゆっくり振動しているようだ。

「あ、お起きになられた」
菅井はそう言うと、箱の蓋の端を持ってそっと小さく開けて隙間から覗き込んだ。
わたしは緊張のあまり手に汗が止まらない。

「ご尊顔を拝し恐悦至極に存じ上げ奉ります」

菅井はそう言うとまた蓋を閉じた。
わたしの緊張をよそに、月草寺先生はニヤニヤしてみているだけだ。

菅井がわたしに向き直り、こう言った。
「こちらが、少名毘古那神(スクナビコナノカミ)様でおわします」






(つづく)