2014/06/05

(No.2196): 晃一郎と吉之助(六月二十七日提唱会告知)


通りに面した一尺ほどの小窓は開け放たれ、
梅雨を目前とした湿気を帯びた大気が
この二階屋の六畳間にも蟠り始めた。
ガンメタルブルーの空は今にも泣きだしそうだ。


表通りの路面電車が左右に揺れながら
のんびりと走るのを窓から見下ろしていた
吉之助は、階段をあがってくる足音に気付き
顔を向けた。そこへ晃一郎が現れた。
珍しく麻の背広を着ている。

「おかいんなさいやし。塩梅(あんべぇ)は
いかがでやした」

背広を無造作に脱ぎ捨てると晃一郎は
ちゃぶ台の前にどっかと座りこんだ。

「如何も案山子もねぇ。こいつぉ見てみろい」

言って、丸めたタブロイド誌を吉之助の
足元へぽんと投げた。
晃一郎の背広を衛門掛けに掛けながら
吉之助は目をぱちくりさせた。

ばらんと広がったタブロイド誌には
”多磨東部尭鉦区 単独区として独立”
という150ポ明朝体フォントの見出しが
踊っている。

「こりゃさっき広小路で買ってきたやつだがよ
本営の懐じゃ史官連中がばたばた走りまわって
やがった」

ちゃぶ台の上にあった湯飲みの白湯を
一息に呷ったせいかごほごほと噎せた。
しかし晃一郎は続けた。

「吉祥寺新田村から国分寺にかけての一帯に
戒厳令が発令されたてぇこった。本営陣も
躍起になって終息しようとしてるんだろうが、
まぁ事実上はもうカタぁついちまってる」

「このあとぁいってぇどうなるってぇんですかい」

「村岡の爺さんの肝入りてぇ総軍法務省の
舫中将が本営の立法府何某委員会てぇ連中と
つるんでるって噂は本当だったてぇこった。
お蔭で二乗林の奴もひっくり返ぇるほどの
お見送り(※)を強いられてる」

(※)お見送り
上層部の尻拭いのこと


「ついにドンパチがおっぱじまるんで?」

「いや、無血開城と言やぁ聞こえはいいがな、
村岡爺さんと本営との密約が固まったてぇ話だ」

「よかった、そいじゃドンパチはないんで?」

「ああ、多磨東部尭鉦区の独立を以ってな」

「でもこれで終いてぇことぁねぇんですよね」

「おめぇもわかってきやがったなぁ。終いと
思いてぇとこだがよ。けど・・」

「けどなんです?」


晃一郎は立ち上がると表通りに面した小窓に
寄りかかって外を眺めた。

「紫陽花がもう咲いてらぁ」

「ちょいと晃さんアジサイはうっちゃっておくんない。
けど、なんなんです、気になるじゃねぇですかい」


吉之助に向きなおると晃一郎は思いだすように
ゆっくりと続けた。


「二乗林の入手した情報によるとこうだ。
来る六月の二十七日、渋谷特区で例の軍装の
奴らが提唱会を催す」

「そりゃまた立て続けてぇやつですね」

「四月の豊珠池袋区の提唱会で機材故障の
顛末でこいつぁもう終ぇかとそんなあんべぇ
だったんだがよ、おめぇも知ってる通り、
先の渋谷特区の提唱会じゃ見事に復活しやがって、
そのままの勢いで渋谷特区も引き寄せようって
魂胆なんだろうぜ。あの村岡の爺さんが
この攻勢を利用しねぇはずがねぇ」

「渋谷特区てぇと提唱会をやる場所はぁ先と
おんなじなんですかい」

「ああそうらしいぜ。元老院でせぇ一目置く
ラストワルツってぇ最高の箱だ。
多磨東部を落としゃがった村岡の爺さんだ、
次ぁ九段区との噂もあったがどうやら違うらしい」

「おいらその提唱会行ってもいいですかい」

「おめぇも懲りねぇな。行きなよ。止めはしねぇぜ」

「そうとなりゃぁ提唱会の切符ぁ購わねぇと」

「それなら安心しな。軍装の連中、デューイの
奴らに言っておきゃぁ只にしてくれるてぇ話だ」

「え、晃さんそりゃほんとかい」


小躍りしている吉之助を横目に
晃一郎は小窓から表通りに目を落とした。
路面電車の軌道脇の紫陽花がゆらゆらと風に
なびいている。
激動の中でさえ四季の忠実な遷移を感じながら
入梅の報が入るのももう僅かのことだろう
と晃一郎は想っていた。


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2014.06.27(金)
渋谷 Last Waltz by shiosai
東京電極 vol.20

開場18:30 開演19:00

【出演】
Omodaka
bunga bunga
flower years old
谷口マルタ正明
dewey

http://lastwaltz.info/2014/06/post-12359/

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