2013/12/02

(No.2096): 2096年の挑戦


「そうゆう音象も?」
「ええ、全てです」
「どうしてだね、何が駄目だと言うんだね」
「まだわからないのですか、音象がどうのという
話しではないのです」
「だからキミ、もっとわかりやすく言ってくれ」
「音には創作者或いは演者の想いが顕れるものです
謂わば心持のあり方ですよ」
「想いがないとでも言うのかね、ワシだって
想いがあってだね、」
「聴く限りッ、
そのような想いは感じられませんね、
どころか、拘りや驚き、発見もありません」
「ど、どこがだね、キミの好き嫌いの話じゃないんだよ」
「好き嫌いの話です」
「ワシは30年もやっておるのだぞ、キ、キミのような
青二才にワシの作品の、な何がわかるというのだ」
「30年だろうが100年だろうが好きにはなれないのです
それ以上でも以下でもない」
「お、おいッ 、キ、キミはワシを愚弄するのかッ」
「愚弄?愚弄というよりはツクグロウですな」
「ツク グロウ? なんだそれは」
「今から80年も前にツクグロウという名前のレーベルが
あったのですよ」
「そ、それが何だと言うのだ」
「いやね、あなたのこの作品、ツクグロウから出た作品
のようだなと思ってね、あっはっは」
「それはどういう意味だね」
「いや何ね、deweyという中途半端な連中が在籍してた
レーベルでね、そりゃ酷いもんだったそうです
ライブやりゃ集客ゼロ、レコード売りゃ1枚も売れず
100枚作ったCDも何年も売れずに最後は
燃えないゴミの日に出したそうです」
「キミ、ワシをそんなのと一緒にしないでくれ」
「あっはっはっは愉快ですね」
「し、失敬なッ もういい、帰るッ」


バタム

ドアは壊れんばかりの勢いで閉まった。
北等(キタラ)は流石に言い過ぎたかと思った。
しかし、同じような輩が次から次へと来ることに
正直辟易していたのも事実で、
だからつい本心を言ってしまったのだろうと思った。

ツクグロウか。
北等はひとりごちた。
80年前、ひっそりと存在していた幻の電子音楽レーベルだ。
確かに酷い作品ばかりだったそうだ。
先ほどの男にはああは言ったものの
古(いにしえ)の鈍作もこんな夕暮れには似合うかも
しれない。
そう思った北等は立ち上がって階下の倉庫へ向かった。
確か、好事家のニグメ氏からdeweyのCDを一枚もらっていた
しかし聴くまでもなく倉庫へ投げ入れていたのだ。

倉庫の中は年代別に綺麗に整頓されているので
それはすぐに見つかった。
埃まみれのCDのケースをふっとひと吹きした。

「2013年、か、もう83年前なんだ、えーと、
オルドビスの、遺産、か、遺産ねぇ・・・」


北等はCDを手にすると上階にあるリスニングルームへ
向かった。CDプレイヤは存在せず、CDケースごと装置の
光源に当てれば瞬時に全曲を読み取るシステムだ。

1曲目が再生され始めた。






「な、なんなんだこれは・・・」

北等は絶句した。








2013年12月
dewey 「オルドビスの遺産」
絶賛発売中




tuqugrow label.


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