2013/03/11

(No.1934): 喫緊であるとあとで胸をなで下ろした超大スペクタルもどき


石畳が敷き詰められた街並み。
高低差が激しい。
坂道が多い。
角を曲がると突然立ち上がる石積みだったり
土手だったり。
家々が密集。
レンガの家、石を積み上げた家。
どこかのヨーロッパの古い街のような景色。
意外と草木が少ない。
全体的に白っぽい。
灰色っぽい。
屋根は濃い色。黒っぽい。

その街の一方に巨大な城。
城と言っても日本の城でもなく
ヨーロッパ中世の城でもなく
どちらかというと万里の長城のように
巨大に長い建造物。
内部は非常に複雑な間取りで迷路のように
入り組んでいる。
初見であれば必ず道に迷う。

その巨大な城が街の北側を覆うように
巡っている。
人々はその城に守られながら暮らしている。


夜。
いやほんのりと西の空が赤いので
日が沈んだばかりの刻限。

たくさんの人々が行き交う。
賑やか。
物売りの掛け声や雑踏の音。
活気あり。
屋台からはおいしそうな匂いが
漂ってくる。

人々はざっくりとした布のようなもので
身体を包んでいる。
男も女も。
あまり派手な色の服はいないようだ。


僕は、その雑踏を抜けて城のどこかの
入り口の前に佇んでいる。
入口の建物は白壁に黒い格子があるので
どこか日本風な趣も感じる。
扉は大きく開かれて、中は真っ暗で
よく見えない。

僕は躊躇なく中に入る。
入るとそこは長い廊下の途中だったらしく
左右に通路が伸びている。
えんじ色の絨毯が通路に敷かれている。
左は真っ暗だが右の少し先に灯りが見える。

街はあんなに賑やかなのに城の中は静かだ。
誰の人影もない。
僕は灯りを目指して歩きははじめた。
あまり絨毯の感触がない。
安物のようだ。

灯りのところまでくると
左側に木で作られた昭和三十年代と思われる
共同便所があった。
板塀が懐かしい。

急に尿意を催したのでせっかくだから
城の便所を使おうと便所に進む。

うす暗い。


男用の便器はなく、全て個室の作りになっている。
その個室の扉が十部屋ほども横にずらっと
並んでいる。
中途半端に開いている扉もあれば
ヒンジが壊れて傾いている扉もある。

一番手前の扉を開け中に入る。
入ると各個室同士は全部筒抜けで
個室と思われた壁板は一切なく、
全ての便器が横に列をなして並んでいる。
しかも
横の壁板がないだけではなく、
後ろの板すらない。
廊下からみたら普通の共同便所に見えたのに
いまこうしてみると便器と扉しかない。

ほほーこういう作りか。


便所の裏側を見るとそこにはガラクタが山の
ように積まれていた。
物置というよりはゴミ捨て場のような塩梅で
いつの時代のものかわからないくらい古そうな
二抱えもある大きな割れた壺だったり、
すすけて元の色がわからないほどの燭台だったり、
壊れた一人用肘掛付き椅子だったりが
散在し、或いは積まれている。


便器は洋式だった。
しかし蓋のない簡素なもの。
中に水も貯まっていない。

使えるのかしらと思いつつ
小便をしようとしたら、
そのゴミ捨て場に一人の老人がいることに
気付いた。
老人は白字に黒い細い短い線がたくさん
描かれている布に身体をくるんでおり、
そして自分の背ほどもある大きな
竹ぼうきで地面を掃いている。


城の使用人と思った僕は、老人にこう言った。
「ここで小便をしてもかまわないでしょうか」

しかし、老人は聞こえないのかそれには応えず
無心に竹ぼうきで掃いている。



刹那
猛烈な尿意で目覚める。


あすこで老人にいいよとでも言われてたら
きっと寝小便していただろう。







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