2008/08/22

(No.544): 目の先六尺の声音のこと


浅田次郎著 闇がたり・天切り松 シリーズ。
一冊二冊と読み進めるうち、ついに最終巻になってしまった。
存分に面白い。
ドラマや舞台になるのも肯ける。


「闇がたり・天切り松 シリーズ」とは大正から昭和にかけて
帝都を席巻した粋でいなせな「目細の安」一家のエピソード集。
彼らは、盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には
救いの手を差し伸べる帝都に名を馳せた義賊であった。

子供が歌うわらべ唄にもなってしまったほどの天才掏摸安吉親分。
相手の懐の財布から現金を勘定して半分だけを抜き、
財布はそのまんま的(まと)の懐へ戻す。
これをすれ違いざまの一瞬で行う。
大江戸以来の「中抜き」という職人技である。
正しく神業だ。


被害者はむしろ、
あの「目細の安」に「中抜き」をかけられたと吹聴すりゃ
大層な人気者となりやす。
えれぇことだ、てぇしたもんだと、自慢話しにも花が咲き、
飯や酒をさんざん振舞われ、結局抜かれた額よりも多いご祝儀を
頂いちまうってぇんだから粋な話でござんしょう。

目細の安吉一家の一番下っ端であった天切り松の二つ名を冠する松蔵が
平成の御世でせぇ、弾むような江戸弁で大正昭和「目細の安」一家の
胸のすくような物語りを語りやす。

「天切りたァ大江戸以来の夜盗の華。ケチな世帯にァ見向きもせず、
忍び返し(げぇし)に見越しの松、長屋門に車寄せてぇお屋敷ばかり、
夜に紛れて屋根を抜く、富蔵、藤十郎、鼠小僧の昔から
一子相伝、親分から子分へと奥義を伝えた荒技でぇ」

正義の味方か大悪党か、話の下げまで聞いておくんない。









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