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髪を切りに床屋へ赴く。
その床屋は筆者は一見の客。
昭和に残された塩梅の店。
椅子は3つ。
おばさんが一人で営業。
もちろん、予約なんぞ必要なし。
先客あり。
老人。男性。
店のおばさんの声が馬鹿でかい。
客の老人の声はしょぼしょぼ。
無口。
店のおばさんは饒舌。
「外環を通ったらわりと近いのよ」
「次男坊に高いところの物、取ってもらう」
「蛍光灯の取替えなんかもうできやしないよウシャシャシャ」
「水周りなんか高くって直せないわッ」
世間話。
おばさん大声。
客は無口。
「あーそう、ふんふん」と相槌のみ。
おまたせッの声で筆者の番になる。
「ツーブロックでお願いします」
「長さはどうします?」
「あ、あのツーブロックわかります?」
「わかりますよ、だから中の長さはどうします」
「あうう、短くお願いします」
「円形脱毛症がここと、ここにあります」
「ふーん、あ、だから段カットにするのね」
「まぁ、そうっすね」
一見の客には流石に無口になった。
ラジオもつけずに無音の中、
ひたすらにカシャカシャとハサミの音だけが響く。
突然
「あらーとれちゃったよ」
「!?」
「これ、ほら、ネジが。もうダメねぇ」
と、ハサミを見せられる。
ふと、周りを見てみると
ガムテで補修してあるハサミもあるようだ。
どうやら経営はカツカツらしい。
備品はどれも補修のあとがある。
今座っているこの椅子もヨレヨレである。
洗髪も終わり、最後の仕上げをやってもらっている時
常連さんと思われる男性が来店。
同様に老人。
「あら、アキちゃんは連れてきてないの今日」
「あ、いないよ」
「あら、そう」
「ご主人どうよ、その後、入院したの?」
「それが、もう入院も断ったのよ」
「なんで」
「もう、最後は家でって」
「ほうそうかい、そりゃたいへんだな」
「入ったってもうだめだからね」
そう言うおばさんが気丈に見えるものの
よれよれの備品がなんとも痛ましく
また訪れてみようかとも思った。
しかし、やはりこの手の床屋での
ツーブロックはどうも塩梅がよくない。
最高だ。
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