2012/11/05

(No.1839): 街の二つの炒めの匂い


今日は筆者地元にあった趣深い二つの
中華料理屋の話をしよう。
最初にお断りしておくがオチなどは一切ない。


筆者が小学生時分だからもう40年も前になる。
中華料理屋といってもいわゆるラーメン屋だが
定食もやっている的な店だ。
何の変哲もない親父さんとオバチャンでやっている
ただの街の中華屋の話だ。


一つは屋号を「泉屋」といって幅員4mほどの
住宅道が交差する十字路の角っこに存した。
一軒家、平屋。木造。
確かそのお店の脇に郵便ポストが立っていた。
白のれんに赤文字で「泉屋」と書かれ軒先に
垂れさがっている式の店。

そののれんのかかっている西側は木の格子ガラス
引き戸(左右二枚ずつ)になっていて、全てを
ガラガラと開ければそれでお店の中が丸見え式。
外に面した厨房換気扇の周りは数十年にも及ぶ
油汚れが得体の知れない黒い塊となってしかし
それもお店のディテールとして説得力を持っている。
店の中はいわゆるカウンター席しかない作り。
6~7人で満席だ。
昭和40~50年代ということもあるがエアコンなどは
当然ない。夏などは戸は開けっ放し。


土曜の昼。学校が終わって家に帰る。
何かの都合で昼飯が用意されていない時に
あすこで食べてきなと母親にお金をもらって
よく通った。

かならず食べたのが「焼きそば」だ。
しかもこの店はソース焼きそばではなく
(今思えばだが)塩やきそばだった。
いや正確には、なんかラーメンのスープ?
かなんかを使って味付けした焼きそば。
そういう感じだった。
すくなくともソースではない。
色もソース色ではなく、白っぽかった。
あと、油はラードを使っていたと思う。
それときくらげが印象意的だった。


中学生になると疎遠になり、
高校に入るかどうかという頃合いに
気が付けばお店はなくなっており、
更地になっていた。
その場所は今は別人の普通の住宅に
なっている。



もう一つ。その「泉屋」の十字路を北に
ほんの30mも歩いた先にあった中華屋。
ここは出前もやっていた。
三軒長屋の一番端にあった油で汚れた店内の店。
屋号は「福龍」。
カウンターに3席ほどテーブル席が3卓ほど
だったと記憶している。
テーブルやカウンターの色は当然赤い。

テーブルにあった調味料の数々がそれはもう
時代のかかったと思われるものばかりで
食欲をそそられた。

ラー油瓶の中には得体の知れない
固形物が大量に沈殿している。
小さい昆虫の死骸が混じっていても
気にならないほどだ。

このお店は実はだいぶ大人になってから通った。
大学生の頃から社会人数年くらいまで。
ここでは麻婆豆腐定食をよく食べた。
なんせ量が尋常ではなかったからだ。

麻婆豆腐定食の麻婆豆腐は銀色の
アルマイト平皿に動かしたら絶対あふれるほどの
盛りであり、しかも一般的な「麻婆豆腐」の
ソレではなく、なんというか「福龍」式であり
真っ赤でもなくどちらかというとこげ茶色の
胡椒を中心とした味付けだったような気がする。
山椒と胡椒かな。
これがまた飯とよく合う。
定食のご飯も軽くお茶碗三杯半はあるだろう大盛り。
これにスープが付く。
チャーハンなどのスープと同じやつ。
完食したらもう腹ははちきれんばかりである。

福龍行きますかと旧友Nと示し合わせて
通ったことも多々ある。


気付くと
この店もいつのまにか閉められていた。
雑駁ない店は気付くとなくなっている。








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