2012/10/15

(No.1824): 街の点景


筆者が4歳とか5歳だから昭和42、43年とか
だいたいそのあたり、記憶の片隅に、
しかし鮮烈に今も残るお店。
筆者実家の前は幅員五間のバス通りで
私鉄駅まで通じている。
その商店はその道沿いにあった。
何屋だったのだろう。今思い返すと判然としない。

木造平屋。黒褐色の木造。
正面は木の格子でガラスがはめてあって
全面が戸になっているいわゆる
昭和の商店の作りだが、そこで商っていた品物は、
日曜大工の工具とか金物とかそういった部品の
たぐいだった。
今でいえばホームセンター的な品揃え。

幼少の頃の記憶では、とにかく暗い店だった。
陳列棚も木で作られていて黒とかこげ茶とか
そんなカラーしか思い出せないくらいだ。
お店の中は薄暗くて、工業用の油の匂いがしていた。
しかし決して嫌いな匂いではなかった。

日曜にはよく父親に連れられてその店を訪なった。
覚えているのは、戸のレールにかませる車輪などを
購入していたことだ。
子供にとっては見た事もない機械とか
薬品とか様々な小物金具とか、実は筆者には
ある種のワンダーランドだった。
だからその店に行く事は楽しいのだが、しかし、
反面、恐ろしい場所という想いもあったのだ。
なぜなら店主のおじさんは傴僂男だったからだ。
今思えば背骨の病気だったのだろうと想像はつくが
当時幼児だった筆者にとっては恐ろしい対象だった。

工業用オイル臭に包まれた薄暗いお店の中を
極端に丸まった背中でひょこひょこと歩く姿が今でも
脳裏に焼き付いている。

数年後だったか十数年後だったか定かではないが
気付いたらそのお店はなくなっていた。
あとかたもなく。

その幅員五間のバス通りには、筆者が子供だった時に
存在したお店はまだ数店舗は残っている。
その残っている全てのお店は息子や娘が跡を継いで
代替わりしている。だから感慨も深い。
しかし、同時になくなっていったお店もまた多い。

そういう循環が街の景色の移り変わりなのだろう。

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